構成上の問題が発生した。あなたは原稿を書いている最中、新しいシーンを思い付いたのだ! やったね! Halleluiah! どうしよう!?
どこかで見かたような展開だ。けれど、前とは事情が違う。前はカードを書くという、執筆の前段階での修正だった。今回は、すでに執筆が始まってしまっている。こんな時、どうすればいいのだろうか?
手は二つあって、どちらにするかは状況によって変える。
一つ目は、「カードだけ書いておいて、原稿の修正は後から加える」ことだ。
これは、大事故を起こしづらいやり方だ。
あなたが思いついたこの素晴らしき追加のカードは、物語を成立させるために必要なカードではなく、物語をより面白くするためのカードだ。
ゲームで例えるなら、ゲームソフトそのものではなく、ダウンロードコンテンツだ。ソフトはゲームをプレイするのに絶対に必要だが、ダウンロードコンテンツは追加要素である。追加要素は楽しいが、まずはベースとなるゲームを作らないと始まらない(けど往々にして、こういう部分ばかり詰めてしまいがちだ)。
厄介なのは、追加要素について考えるのはとても楽しいということ。とてもクリエイティブなことをやっている気分になれるし、実際そうだ。創作の神様が降りてきて、最高にハイってヤツになれる。だからこそ厄介だ。
こんなに素敵なシーンなら、最も適した場所に配置したくなるのが書き手の性である。そうなると、書く手を止めて考え始めてしまう。そしてそのまま、考えすぎてしまうんだ。
追加するシーンの扱いに時間を割き、万が一手を焼いてしまうと、ずるずるとモチベーションが奪われていく。できる気がするのにできないというのは、とてもイライラするものだ。
「面白いシーンを思い付いた、このシーンは書きたい……!」。こう願ったばっかりに、新たに思い付いた素晴らしいシーンが、立ちふさがる巨岩のように思えてしまう。
そういう時に、冷静になるのだ。そしてできれば、そうなる前に冷静になるのだ。
考えてみてほしい。そのシーンは追加要素であって、物語を成立させるのに必須のシーンではないはずだ。そこに気づけば、執着を生んでいるのは自分自身だとわかる。一歩引いてみれば……、ああ、道は別にふさがっていないではないか。思いついていたのは追加要素なのだ。
カードに書いておいて、一旦わきにどけておく。初稿を完成させてから、組み込む場所を改めて探せばいい。
初稿から最高の物語にする必要はない。そんなことをしていては、間違える勇気や、良くない文章を書く勇気が失われてしまう。手が委縮して、生産スピードも落ちる。伸び伸びと文章を書ける白紙の原稿用紙を、自分で地雷原にすることはない。
執筆中に思い付いたシーンは、カードに書いて、脇にどけておく。それにとどめておくこと。それが、この喜ばしいトラブルへの対処法だ。
原稿への反映は、第一稿を書き終わってから、推敲の時に行うのだ。
粘土を好きにこねくり回すのは簡単だ。けれど、粘土をゼロから生み出すのは大変だ。同時にやると、両方ともがとても難しいことになってしまう。そして、嫌になってしまうのだ。今すべきことは、物語を文章の形で最後まで出力することだ。
考えながら書くのは大変だし、書きながら考えるのも大変だ。けれど、別々ならそこまで難しくない。せっかく今まで、ぼくに小突かれながら、あれこれと考えさせられた。頭を空っぽにしてキャラクターと物語を楽しみながら書けるのは、今しかない。なら、楽しんだ方が得だ。
で、「カードだけ書いておいて、原稿の修正は後から加える。」に対になるのが、もう一つの対処ルートだ。
その対処は、「その場ですぐに、(追加)変更を加えること」である。
これは、現在取り掛かっているカードの、すぐ次にカードを追加したくなった時におすすめの方法だ。今書いているところから地続きならイメージも湧きやすいし、カードが増えたことによる影響も考えやすい。
駄目ならカットしてしまえばいいんだからね。気楽に、かつ、アドリブ感を味わいながら書ける。会話シーンを追加したり、シークエンスの中により面白くなる追加のシーンをいれたり、なんでもできる。
この場合、手に負えなくなることはあまりない。道のりが変化しても、本来書くはずだった次のカードの始まりに着地できればいいのだ。追加したカードがどのように着地して、次のカードに繋がるか。それを考えていれば、大事故にはならない。反対に、ここが思いつかないならばさっきのルートを取った方がいい。
もし試してから収拾がつかなくなったなら、追加したカードと文章を取り除き、一旦脇に寄せておこう。そして、後から検討すればいいのだ。
ぱっと見だと、躓いたように思える。けれど、何もそんなことはない。今すぐにはできなかっただけだ。もっと時間があって、のびのびと考えられるようになってから、取り組むというだけ。躓いてるなんて、とんでもない!
「本当なら今日中に8000字は書きたいのに、こんなところで足踏みしてちゃダメなんだ……! だから早く何とかしなきゃ……!」。こんな焦りで頭をいっぱいにして取り組んでも、辛いだけだ。まともな思考なんてできやしない。
アドリブでできそうなら、やってみればいい。その際に大切なのは、できそうにないなと思ったら、すぐに引き返すことだ。そしてその際に、凹まないこと。時間を使えば解決できるから、失敗でもなんでもない。今は忙しいから、後で解決するのだ。