2.3ピンチ≠危機

ADVANCEステップ

さて、次の新しい概念に行こう。今度は『ピンチ』について。前回はプロットポイントⅠ・Ⅱの中間点として、ミッドポイントを打った。これでかなりわかりやすくはなったけれど、せっかくだからもっと細分化してみようよ。

細分化すればするほど、パラダイムは実際の、個々のシーンに近づいていく。どんどんわかりやすくなっていくんだ。

ここをクリアすれば、長かった第二幕の「どこに、何を書けばいいか」は明白だ。「どんな繋ぎのシーンを書けばいいか」も、「使いたいシーンをどこに配置すればいいか」も、判断できるようになる。さぁ、やっていこう!

ピンチ=はさむ

ここで言うピンチとは、ピンチのことではない。意味不明なのでGoogleに聞いてみると、こう出てくる。

Pinch

(二つのもの、または親指と人さし指で)つねる、つまむ、はさむ、(…を)締めつける、摘み取る、(…を)つまんで取る、苦しめる、縮み上がらせる、困窮させる

Weblio辞書 英和辞典・和英辞典

この場合のピンチは、「危機」ではなく「はさむ」とか「つまむ」の方だ。洗濯ばさみをイメージしてほしい。

間違っても、「危機」と覚えてはいけない。『葛藤』でもあったが、一般的な言葉であっても、それは物語を書くために使う、別のものだ。専門用語としての『ピンチ』だと、認識してほしい。

ここをわかっている人とわかっていない人が物語について話をすると、認識がズレて失敗する。パラダイム上に記されるこの2つの挟み込みは、洗濯ばさみだ。危機で物は挟めない。

挟むとは何を? それは、物語の流れを挟む。どこを挟むのか? ミッドポイントの周辺を挟む。

ミッドポイントによって物語の折り返し地点、文脈の変化させる新たな転換点を見つけた。ミッドポイントによって、第二幕の文脈は2つに分割され、内包された少し具体性の上がった別の文脈、サブコンテクストが顔を出す。

■『マトリックス』のサブコンテクスト

第二幕の中心となる出来事がミッドポイントであり、文脈を前半と後半に分割して、サブコンテクストを見つけ出した。

そして、第二幕の前半、第二幕の後半という部分の中にも、ミッドポイントと同じように、中心となる事件が存在するのだ。物語が脱線しないよう、書くべきことが曖昧になってしまわないように、物語をパラダイムにきっちりつなぎ止め、洗濯ばさみで挟むように留めておいてくれている。そんな出来事がある。

第二幕前半にあるものを『ピンチⅠ』、第二幕後半にあるものを、『ピンチⅡ』という。

■『マトリックス』のピンチ

『マトリックス』の第二幕前半と後半、中心となる出来事はそれぞれ、モーフィアスがネオに「救世主の捜索は終わった」と告げるシーンと、「デジャヴーだ」と、エージェントからの干渉があったことから始まる一連のシーンである。電話線を切られ、現実へ戻るルートを塞がれる。襲撃に遭ったのだ。

第二幕を見ていくと、モーフィアスはピンチⅠに入るまで一言も、ネオが救世主であることに触れていない。それまでは、ネオを現実の世界に適応させることに終始している。

ちょっと過剰な演出でネオに人類と機械の戦争、現実を見せてくれたり、観客としても、面白いシーンがたくさんある。もし自分が作者だったとしたら、どうだろうか? 今まで思わせぶりにやってきた、第一幕の世界のタネ明かしを、ようやく始められたのだ。語りたいことは山ほどある。

だが、大切なことを忘れてはいけない。この物語はネオが本当の自分に目覚める物語であり、第二幕はヒーローの話をする部分なのだ。そして第二幕の前半は、気乗りしないヒーローの話をする部分だ。

ネオが真実を知り、現実の世界を知っていく中、設定を語るのは楽しい。けれどいつか、物語を設定の話からネオ自身の話に引き戻さないといけない。そのために機能するのが、ピンチⅠだ。

ピンチⅠがあることによって、物語はネオの話に引き戻される。救世主の捜索が終わったのはなぜか? ネオが救世主だからである。モーフィアスは、そう信じている。自分が救世主だと告げられてようやく、ネオ自身の物語が始まる。

「モーフィアスが、ネオに救世主であることを伝える」このシーンに向かって、第二幕を見せてきた。これで準備は整った。モーフィアスは言う。「よく休め。大変だぞ」「何がだ?」「訓練だ」。ほら、話題が切り替わった。ネオに言っておくべきことをモーフィアスが言ったからこそ、物語は次のステップに移れる。思う存分、救世主としての力をつけていこう。

ここからは、ネオがヒーローとしての力をつけていく姿を見せる。そのためには、ネオが救世主であることを、モーフィアスが告げていないとね。反対に言えば、ピンチⅠに到達さえすれば、物語は救世主の話、ネオが救世主として力をつけるパートに移行できるんだ。

フィールドによる『ピンチ』の定義

ピンチについて、フィールドは以下のように語っている。少し長めの引用になってしまうけれど、ピンチの厳密な定義に関わる話なので紹介させてもらおう。

プロットポイントⅠからミッドポイントまでを組み立てていくと、ある重要な鍵となるシークエンスが、前半を一まとめにしていることに気がついた。

(中略)

その重要なシークエンスは、前半では四五ページ目に起こる。そして後半のシークエンスは七五ページ目で起こる。この二つのシークエンスが、前半・後半の各三〇ページをつなぐ役目を果たしている。つまり、第二幕前半の始まりから一五ページあたりでこのシークエンスが起き、そのあと一五ページでミッドポイントとなる。後半も同じことだ。ミッドポイントから一五ページあたりでこのシークエンスが起き、さらに一五ページで第二幕終わりのプロットポイントⅡになる。ストーリーを前進させる両シークエンスは、四五ページと七五ページで起き、前半と後半をしっかりと固定する役割を果たしているのである。

(中略)

このシークエンスは、ストーリーを前進させる限り、アクションでも会話でも構わないということもわかってきた。

(中略)

私はこのシークエンスに名前をつけることにした。前半のシークエンスは〝ピンチⅠ〟、後半は〝ピンチⅡ〟である。〝ピンチ〟という名前は、ストーリーを「挟む(ピンチ)」から来ている。プロットポイントⅠからミッドポイントまで、ミッドポイントからプロットポイントⅡまでのアクションを進展させ、ストーリーをしっかり挟んで結びつけ、脱線させないように前進させるポイントという意味を込めたのである。

(Field 2005: p. 209~211)

なお、ページ数について言及している部分は海外の脚本形式がベースになっている。なのでぼくらの場合、これを「第二幕前半の真ん中あたり」と、「第二幕後半の真ん中あたり」と読み替える。第二幕前半の真ん中あたりにあるのがピンチⅠ、第二幕後半の真ん中あたりにあるのがピンチⅡだ。

第二幕と前半と後半を挟み込み、物語を前に進め脱線を防ぐ役目のあるシークエンス。これがフィールドいうピンチの定義となる。ただし、これには少し補足を入れる必要があると、ぼくは考えている。その話をする前に、進出用語である『シークエンス』について解説する。

『シークエンス』のイメージだけ把握しておく

続けざまに新出用語が出てきて申し訳ないのだけれど、ピンチのフィールドの定義に触れた以上、『シークエンス』という用語に触れておかないといけない。

シークエンスが重要度が増してくるのはパラダイムを書き終わった後、個々のシーンをプロットカードに書き起こす段階になってからなんだけど、ピンチを正確に見るために、最低限の知識をここで入れておこう。勿論、必要になってから、改めて詳細を説明する。ここではまず、ピンチの理解に必要な知識に絞って知ってもらうよ。

シークエンスとはざっくり言うと、「特定の内容、ある目的に沿った一連のシーン」のことだ。

■シークエンス=ある目的に沿ったシーンの集まり

この場合の「ある目的」とは、「特定の出来事に関する一連のシーンを読者に見せる」だと思っていい。ピンチは「第二幕前半、後半を挟み込む役目を持った出来事に関する一連のシーン」であり、それが第二幕の前半、後半をまとめている。つまり、「第二幕前半、後半の中心的な出来事」と捉えられるわけだ。

例えば、『マトリックス』の第二幕後半、エージェントの襲撃がそうだ。これは特定シーンを指しているのではなく、「エージェントの襲撃に関連する一連のシーン」を指しているよね。この一連のシーンが第二幕後半をまとめる、中心的な出来事となっているわけだ。

そして、「フィールドの定義により厳格に沿う」というバージョンアップ方針もあり、今回ここに、簡略ではあるものの、シークエンスの説明も挿入した(詰め込む量がさらに増えてしまうのは承知しているが、定義に触れれば用語の説明はどうしても必要だ)。

シークエンスは「ある目的に沿ったシーンの集まり」であり、ピンチは「第二幕前半、後半を挟み込む出来事に関連する、シーンの集まり」だ。

そしてそれを捉えやすく表現するなら、「第二幕前半、後半を挟み込む出来事」であり、それはあなたの物語の第二幕の姿を知っていく上で、非常に有用だ。

フィールドの語る『ピンチ』への補足

シークエンスの話を終えたので、「第二幕と前半と後半を挟み込み、物語を前に進め脱線を防ぐシークエンス」というフィールドの定義に補足したいことについて話そう。それは、「ピンチはシークエンスでないといけないのか?」という問題だ。

ソースでは先の引用のように「私はこのシークエンスに名前をつけることにした」とシークエンスを名指ししているが、それ以前に、「このシークエンスは、ストーリーを前進させる限り、アクションでも会話でも構わないということもわかってきた」とも言っている。

となると、「ピンチは必ずしもシークエンスを指すものではない」と解釈することもできると、ぼくは捉えている。でないと、「中心的な出来事であってもシークエンスでないから、ピンチではない」という、奇妙な否定が起こってしまうからだ。

実際、フィールドは後の著書で「『ショーシャンクの空に』では、ピンチⅠは刑務所長がアンディの独房を抜き打ち検査するシーンだ。」と、シークエンスではなくシーンをピンチとしている(Field 1998: p. 48)。

なので本稿では、シーン、シークエンス(出来事)、どちらもピンチとして良いと扱う。ここが補足したかった部分だ。

ピンチを経由して、次の点へ移動する

もし、ピンチⅠがないとどうなるだろうか? マトリックスの設定を延々と語ってしまったり、クルーの日常を流したりを、繰り返すことになってしまう。せっかくネオが現実の世界に適応したのに、だらだらとそんなことをやっている暇はない。

そもそもネオは、ミッドポイントで予言者と引き合わされるのだ。モーフィアスがネオを予言者に会わせるのは、ネオが救世主かどうか確かめるためだ。ネオ、そして観客に、ネオが救世主であるって情報をしっかりと伝えておかないと。でないと、ミッドポイントに到達できない。

プロットポイントⅠが終わったら、次はミッドポイントに向かって進む。ピンチⅠは、ミッドポイントに到達するのに必ず必要になシーンなんだ。

だって、救世主の情報を何一つ知らないままネオが予言者に会って、一体なんの話をするんだ?口を開けて、「あー」と言って、顔を見て貰えば、救世主かどうかわかるって? そんな馬鹿な! あとはクッキーを食べておしまい? これはなんの物語だっけ?

予言者は、ネオが自分をどう思っているか、反芻する存在にすぎない。鏡がそれ単体であっても何も映らないのと同様に、ネオ自身が救世主の情報を知らないと、予言者は何も言えない。書く方だって、何の話をさせればいいか、わからなくなってしまう。

あなたがあなた自身の物語を書く時、ミッドポイントに当たるシーンでは、キャラたちが何かをしているはずだ。それまでにやっておかないといけないシーンは、いっぱいあるだろ?

ネオには予言者と意味ありげな会話をしてもらいたいし、タイタニック号に氷山がぶつかってから、身分の違いについて語り合ってる暇なんてないんだ。一つ終わったら、あなたの物語の次のポイントが急かしてくる。「準備して!次はこっちに急がなきゃ!」

プロットポイントⅠを終えたら、物語はすぐに、プロットポイントⅡを目指して動き始める。同時にそれはミッドポイントを目指すことでもあり、目前の、ピンチⅠに向かって動き出すということでもあるんだ。

■ピンチを中継することで、中継点がさらに明確になる

これはピンチⅡでも同様だ。ピンチⅡがなければ、予言者に言われたことについて、延々とネオが悩んでいる様を、流すことだってできてしまう。けれどいつかは、プロットポイントⅡへ到達しないといけないんだ。そのために絶対必要なことは何だろうか?

プロットポイントⅡで、自分を信じることを、自分で選ぶ。そうすることになったのは、モーフィアスが捕まったからで、そのきっかけは、裏切り物の罠によって襲撃を受けたせいだ。

襲撃を受けなければ、モーフィアスを救うことができると、ネオが自分で自分を信じるという選択はなかった。だって、襲撃されなければ、モーフィアスがネオの身代わりとなって、敵の手に落ちることはなかったんだから。

つまり、ミッドポイントの地点からプロットポイントⅡへ到達するには、襲撃を受けていないといけないんだ。ピンチⅡを経由して、プロットポイントⅡに至る。

ピンチⅡは、ミッドポイントの状態からプロットポイントⅡを引き起こすために、第二幕後半で、やっておかなければいけないシーンなのだ。

このように、ピンチを設定することで、物語が横道に逸れなくなる。ミッドポイント以上にだ。

脱線するのは、次の目的地が遠いから

プロットポイントⅠを終えたとして、次に目指すシーン、ピンチⅠが目の前にあるのに、他のことをやっている暇はない。

ピンチを使うとこうやって、物語がそもそも脱線しなくなる。そこからやることは明白だ。「サブコンテクストに合致し、ピンチⅠに繋がるシーンは何?」と、自分の物語に聞けばいい。

ピンチⅠは目の前のことしか保証してくれないが、その先はミッドポイント、ピンチⅡ、プロットポイントⅡが保証してくれている。だから目の前のシーン、目前の中継点に集中して書くことができる。

また、中だるみしなくなる効果もある。中だるみとという現象は、物語が前に進んでいない状態だ。物語が前に進むというのは、パラダイム上の次の点に至るためのシーンを見せたということ。次のポイントに向かって、次のシーンが始まる。これが、物語が前に進んでいる状態だ。だから、プロットポイントⅠを終えたら、すぐにピンチⅠに到達するのに必要なシーンをやっていく。

ピンチを使えば物語は自然と脱線を起こさないし、起こしてしまったとしても、ピンチまで戻ってこればOKだ。当初の予定通り、物語を書き進めることができる。

勘違いしないでほしいのは、「読者のために脱線を防ぐのではない」ということ。

脱線を防ぎ、物語をカットしてスリムにすれば、流れが引き締まり、確かに物語の質は良くなる。けれど、それはおまけに過ぎない。まずは、自分のために脱線を防ぐ。最初の読者は自分だ。自分が面白いと思った物語を、そのままの形で掘り出す。そのための下準備のためにやるのだ。

物語が脱線して、収集がつかなくなって、どうすればいいかわからない。そんな状態にならないために、パラダイム上に、「かならずやらなければいけないこと」のメモを、洗濯ばさみで挟み込んでおく。これがピンチを決めるということなんだ。

プロットポイントⅠからミッドポイントの間で迷子になったら、パラダイムを見直してみればいい。「ピンチⅠの地点に至るには、どんなシーンが必要だろうか?自分のキャラクターたちがピンチⅠに至るとき、どんなシーンが生まれるだろうか?」こう考えることで、必要なシーンが見えてくる。

目的地が遠いとき、中継点が欲しくなる。だけどそんな時、思いついたシーンに飛びつくのではなく、「構成上の機能を持った正しい中継点」を判別することが大切になるんだ。

次は、ピンチが生む本当の効能について話すよ。お楽しみにね!

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