3.1長編を書くためのマスターキー

ADVANCEステップ

ミッドポイント、サブコンテクスト、ピンチ。ADVANCEステップではこの3つを新しく学んだね。今回は、長編を完成させるためのマスターキーである「点と空間」に関する話だ。

パラダイムという見取り図の話からようやく、個々のシーンに繋がる話をしていける。

「繋ぎのシーン」も、「新しく思いついたシーン」も、「使いたかったけど場所が見つからないシーン」も、パラダイムを書けていれば怖くない。武器はもうある。その使い方を見ていこう。

発展形のパラダイムの上に「割り振る」

「起承転結の中には小さい起承転結があって……」と、こういう話を聞いたことがあるかもしれない。

三幕構成も、同じようにそうだ。第一幕にも序盤・中盤・終盤があり、第二幕にも、第三幕にもある。第二幕前半にも、第二幕後半にもある。プロットポイントⅠとピンチⅠの間にも、ミッドポイントとピンチⅡの間にも、序盤・中盤・終盤は存在する。

『タイタニック』の第二幕は、二人が出会い、仲を深め、それが最高潮に達するまでを描いているわけだが、序盤・中盤・終盤の形になっている。第二幕の中に、別の序盤・中盤・終盤が、内包されているわけだ。

実際にシーンをカードに書いていく段階で、書き終えたパラダイムを、こういう目で見る。「プロットポイントⅠからピンチⅠまでのサブコンテクストは、○○だな。そうなると、2点の間を、序盤・中盤・終盤でつなぎながら、サブコンテクストを満たすシーンは何だろう?」こうやって、どこに何を書くべきか知っていくのが、発展形のパラダイムの使い方になる。

■『マトリックス』の、「どこに、何を書くか」

「どこに、何を書くか」を知ることは、どこに何を書くべきで、何を書かないべきか知ることなのだ。パラダイムに沿って、思いついたシーンを然るべき場所に割り振る。

自分の中にあるアイデアを、ふるいにかける。あのシーンは楽しい、このシーンも楽しい、こっちのシーンは感動できるし大好きだ。そんな風に自分の中に渦巻いているアイデアを、パラダイムを使って本来あるべき場所に配置してあげる。

■アイデアをふるいにかけて、場所を判別する

構成を知らない場合、アイデアは一番上のバケツに、ひと塊の水のように入っている状態だ。混沌としている。何が必要で何が不必要か、この段階ではわからない。

基本的な三幕構成を習得した場合、そのアイデアを3つの幕に分けられるようになる。発展した三幕構成を習得した場合、そのパラダイムを使って、さらに具体的な分類に、自分のアイデアを落とし込んでいける。

サブコンテクストがはっきりすれば、シーンが足りないとき、どんなシーンを補充すればいいのかわかる。文脈やサブコンテクストに対応していて、かつ、物語を次の中継地点まで運ぶシーンを補充するのだ。

新しいシーンを思い付いても、すぐに入れる場所を判別できる

振り分けが終われば、それ以上のあそびはない。この時点で問題は「物語のどこに割り振るか」ではなく、「直前のポイントからここに至るまでに、どんなシーンが必要だろう?文脈とサブコンテクストに合致したシーンは、何にしようか」という具体的なものに変わっている。

思考実験として、『マトリックス』にいろんなシーンを入れてみよう。

それで『マトリックス』が良くなるかどうかはともかく(そりゃそうである。既に完成した、纏まっている物語に何かを足すということは、不純物を足す行為に他ならない)、割り振る場所は判別できる。もちろん、あなたが実際にこれをやるときは、その物語はまだ完成していないのだから、片っ端から入れていってくれて大丈夫だ。

  • トリニティと射撃訓練
  • 月に一度の良い食事
  • 自分が救世主か、船の外をぼんやり眺めて思案する
  • エージェント・バトル・プログラム
  • エージェントに超高速で拳を打ち込むネオ
■アイデアをふるいにかけて、場所を判別する

これらのシーンをふるいにかけたとき、他のシーンとの兼ね合いから、入れられる場所は、自ずと決まって来る。

映画の尺は120分前後しかないが、小説にそこまで厳しい制約はない。入れたいと思ったら入れてみればいい。プロットポイント、ミッドポイントを決め、ピンチまではっきりしている。

『マトリックス』は完成した物語だが、未完のあなた物語だって、エンディング、オープニング、プロットポイントⅠ、Ⅱ、インサイティング・インシデント、ミッドポイント、ピンチⅠ、Ⅱとの兼ね合いが存在する。そうなると、良い意味で、シーンを入れる場所に自由がないんだよね。

これまでも何回かあったように、ピンチまで決まってくると、時系列の制約がかかるようになってくるんだ。制約、と言う言葉は聞こえが悪いから、時系列という指針、と言い換えてもいい。

ピンチまで決まってしまえば「この出来事が起こるまででしか、あのシーンは入れる場所がないな」と、ある種の窮屈さによるガイドを感じるはずだ。

シーンとシーンの「繋ぎ」も一発解決

思い付いたシーンと、別のシーンをつなぐには、どうすればいいのか? これは、長編が書けない多くの人が抱く疑問だ。

「大好きなあのシーンとあのシーンはわかる! けれど、そこに到達できないんだ!」

その解決策を話せるようになるまで、長い時間を要した。ようやく、この話をすることができる。

シーンとシーンの繋ぎに、何が必要だろう? そう考えたとき、サブコンテクストは最高の力を貸してくれる。

あなたが思いついているのが、シーンAとシーンEとシーンHだとしよう。

その各シーンを、パラダイム上のどこに分類されるかを、まずふるいにかける。

■アイデアをふるいにかけて、場所を判別する

ふるいにかけた結果、その内訳はこのようになっていることが判明した。

  • シーンA……第一幕
  • シーンE……第二幕前半、ピンチⅠよりも前
  • シーンH……第二幕前半、ピンチⅠよりも後

ここまでわかれば、話は簡単だ。物語の整合性が取れる場所、時系列や、演出的な制限をクリアできる場所にシーンを配置し、最寄りのポイントに向かうシーンを作っていくだけ。そのための繋ぎにどんなシーンを思い付けばいいかは、文脈、サブコンテクスト、パラダイム上の次の点を見ればいい。

場所さえわかれば、サブコンテクスト、つまり「この区間は何についてのシーンを扱う場所なのか」に沿って、シーンを追加していくだけだ。

■シーンをふるいにかけたあとは、最寄りの中継地点を目指す

振り割った先が同じサブコンテクスト内ならば、こちらも、見せたい順、時系列の順に並べていけばOKだ。パラダイム上の次のポイントに向かって、シーンを作って行く。

あとは、「それらのシーンの間にどんなシーンを作れば、文脈やサブコンテクストを満たしながら物語が繋がるか」を考えていけばいい。これが、「シーンとシーンの繋ぎ」の考え方だ。

シーンを割り振った後は、最寄りの点を目指す

割り振りさえ終われば、あとは、サブコンテクストと目前の中継点が、どんなシーンを書けばいいか教えてくれる。

こうやって考えていくことで、シーンとシーンの間をつなぐには、どんなシーンが必要か、どんなシーンをこれから思い付けばいいのかを、知っていくことができる。

最寄りの地点をはっきりさせておいたこと、プロットポイントⅠ、Ⅱや、ミッドポイント、ピンチをきちんと判別しておいたことが、ここで活きてくる。

割り振ったシーンをその後どう続けるのか? シーンをパラダイム上に割り振った後、次はどこに向かったシーンを思い付けばいいのか? これまでの要素をはっきりと決めていたからこそ、明確になっているんだ。

もう一度、さっきの図を見てほしい。

■シーンをふるいにかけたあとは、最寄りの中継地点を目指す

シーンAをやった後はプロットポイントⅠを目指せばいいし、シーンEをやった後はピンチⅠを目指せばいい。シーンHをやった後は、ミッドポイントに繋がるシーンを書いていけばいい。

何についてのシーンでつなげばいいかは、パラダイムに書き込んだ、文脈とサブコンテクストが教えてくれるんだ。

長編を書くためのマスターキー

この割り振りと、繋ぎの算出をすること。やるためにパラダイムを作って、サブコンテクストを決めてきたんだ。そして、パラダイム上の要素を正確に判別することの大切さを言っていたのも、ここに理由がある。

パラダイムが正確でないと、文脈やサブコンテクストがズレてしまう。そうすると、割り振りをするためのふるいが、正確な形にならないんだ。

そうなると、すべてがズレてきてしまう。間違ったデータで算出された答えは、間違っている。文章問題を数式に起こす段階でズレているんだから、計算が合いいていても意味がないんだ。土台がズレているとすべて駄目になるというのは、こういうことだったんだよね。

ミッドポイントを打つことによって、文脈を分割し、サブコンテクストまで細分化した。そしてサブコンテクストは、「○○より前には、□□についての内容を書く」「○○より後には、△△についての内容を書く」と教えてくれた。

この考え方こそ、長編を完成させるためのマスターキーなんだ。

点を打ち、それによって生まれた空間から、「どこに」を知り、具体化されたサブコンテクストから「何を」を知る。これさえ知っておけば、書くべきことがわからなくなることも、物語が脱線することも、中だるみすることもない。

物語はまっすぐまとまりを持って、エンディングまで進んでいく。点を打てばいくらでも細分化できるし、書くべきことと書くべき場所を、細かく知っていける。

昔書けなくなった物語を、思い出してみるといい。書けなくなったその時、次に目指す地点とサブコンテクストは、ちゃんとわかっていただろうか?

サブコンテクストが決まっていないからこそ、「繋ぎのシーン」に何を書けばいいのか、何の手がかりも得られず、呆然としてしまったのではないだろうか?

『タイタニック』は3時間映画で、シーンの数も多い。この規模の物語を書こうと思ったら、ピンチを打つだけでは、細分化しきれないと感じるかもしれない。

そういう時は、遠慮なく、パラダイムに新しい点を打ってみよう。

大切なのは考え方だ。ピンチの周りには、より小さなピンチがある。パラダイム上の点と点の間には、空間がある。そこにはサブコンテクストが入る。サブコンテクストがわかれば、あとはそれに沿ったシーンを考えるだけだ。

点を打って、その空間に何が入るか考える。この思考を知ってもらうというのは、単に第二幕を書きやすくする以上に重要なことなんだ。

入れたいシーンを思い付いても、すぐに入れる場所を判別できる

振り分けが終われば、それ以上のあそびはない。この時点で問題は「物語のどこに割り振るか」ではなく、「直前のポイントからここに至るまでに、どんなシーンが必要だろう?文脈とサブコンテクストに合致したシーンは、何にしようか」という具体的なものに変わっているはずだ。

思考実験として、『マトリックス』にいろんなシーンを入れてみよう。それで『マトリックス』が良くなるかどうかはともかく(そりゃそうである。既に完成した、纏まっている物語に何かを足すということは、不純物を足す行為に他ならない)、割り振る場所は判別できる。もちろん、あなたが実際にこれをやるときは、その物語はまだ完成していないのだから、片っ端から入れていってくれて大丈夫だ。