4.1ギャグシーンはどこに入れればいいのか?

A&Cステップ

ここまで話してきて、薄々感づいている人もいるかもしれない。

基本的に『お楽しみ』は楽しい話題であり、ミッドポイント以降、事態は深刻化する。それはプロットポイントⅡへ向かうため、話が本筋に戻るからであり、ミッドポイントからは、物語を畳むのに必要なシーンを消化していく必要がある。そうなると、調子の軽いシーンをやれるのは、第二幕の前半しかない。

『お楽しみ』を広く捉えて、「第一幕で説明したこんなキャラクターたちが、こんな状況になったらどうなる?」という期待に、ギャグシーンで答えるのだ。

もしくは、第一幕である。

「日常シーンを入れる場所」という分類が存在せず、『お楽しみ』や『サブプロット』、もしくは、人物の説明を「日常シーンを通して」行うというのが、日常シーンの捉え方だった。

同様にギャグシーンも、「ギャグシーンを入れる場所」という分類はない。あるのは、「物語上のどんな役目を、ギャグシーンを通して果たすか」である。その中で、第一幕でギャグシーンをやるのは、世界や事情の説明をしたり、人物の説明をするのにとても効果的だ。

■ギャグシーンは、人物を説明したり、『お楽しみ』に応える中で使われることが多い

『ターミネーター2』で、全裸のアーノルド・シュワルツネガーが、バーで服やバイク、サングラスを調達するのは、好例である。

彼がサイボーグであり、羞恥という気持ちを持っていないこと、他人の痛みに頓着せず、自身の事情を最優先すること、強靭な肉体を持つことが、面白おかしく描写されている。見た目は人間であるが、彼は痛みも羞恥も感じない。彼がマシーンであることを、はっきりと教えてくれている。

サングラスを拝借するのはもしかすると、彼の人間的な部分の小さな芽なのかもしれないが、笑わせてくれる。州知事の出世作なだけあって、流石のやり方だ。

『パイレーツ・オブ・カリビアン呪われた海賊たち』で、ジャックが登場してからの一連の流れも素晴らしい。

壮大な音楽と海、太陽を背に風に吹かれ、マストに立つ男。しかしその船は、よくよく見ると小さなボートだった!

彼は、浸水してきた水をバケツでかき出す。港に入ると、誰もが仕事の手を止めて彼の方を見る。彼は有名人なのだろうか? いや違う、沈みながら入港してきたボートに乗った、やけに堂々とした男に、目を奪われただけである。彼がジャック・スパロウだ。

素晴らしいシーンはまだ終わらない。帆まですっぽり沈んだボートから、彼は桟橋に降りる。すると、停泊料を徴収する男から、料金を納めるように言われる。彼は仕事を教えるためなのか、少年を連れている。

「船を停めるなら、1シリング収めるのが決まりだ」こう言われて、ジャックはまじまじと、さっきまで乗っていたボートを見る。帆まで海に浸かり、マストの先端が水面から出ているだけである。沈没と停泊の区別は付け辛い。そして男は、名前も述べるよう付け加える。

「それじゃ3シリング出すから、名前は適当に」ジャックの言葉に、男は少し考える。隣には少年が、その姿を見ている。男は笑顔で言う。「ポートロイヤルへようこそ、スミスさん」取引成立である。少年は大人の世界を知った。

こうしてジャックは男と分かれるが、ジャックはその際、男の作業台からお金の入った巾着を盗む。悪びれる様子はない。

この間、約2分である。素晴らしい。たった2分(脚本における2ページ)の間に、ジャックがまともな船を持っていないこと、乗組員も持たないこと、知恵が回る人間であることや、買収ならまだしも、盗みまで平気でやるという事が描写されている。また、入り江の雰囲気の描写を行うことによって、この物語の舞台もについても説明している。お金を徴収する側も四角四面の堅物ではないことや、この世界には軍用の大きな船だけではなく、小さな船も、貿易船のようなものも存在すると教えてくれているのだ。

軽いノリだが、観客を笑わせるためだけの目的で挿入されたシーンではない。特に、ジャックが船を持っていないことと、盗みをするような人物であることを示すのは、この物語の進行に関わる情報だ。彼は自分の船を持たない、悪党たる海賊である。

その情報を楽しく、面白く伝えているのがこのシーンであり、「ギャグシーンを思い付いたから、ギャグをやるためだけに入れよう」ではないのだ。状況を説明し、人物を説明し、その物語の世界を説明している。第一幕に配置するなら、そういう役目を、ギャグシーンを通して果たす。状況設定や『お楽しみ』の一つとして、ギャグシーンを使うという形になるのだ。

ちなみに、第一幕や第二幕前半でない場所に、ギャグシーンやクスリとくるシーンを入れるなという話ではないので、創作が制限されることを、気にする必要はない。

あなたのキャラクターが、ミッドポイント以降でも皮肉や冗談を言う元気があるなら、それで大丈夫だ。ただし、プロットポイントⅡを目指すために動き始めている物語の中で、そのキャラクターが、第二幕前半ほどそのギャグを楽しめるかどうかは、考えてみた方がいい。

ミッドポイントの後はもう、物語の先行きが気になる部分が始まっている。せっかく楽しいシーンなのだ。頭からっぽで楽しいシーンは、何も考えずに物語を楽しめる第二幕前半や、物語が始まったばかりの第一幕でやるのが、読んでいる方も楽しみやすいよ。

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