2.4執筆中に矛盾を見つけてしまったときの対処法

WRITINGステップ

ぼくは原稿を書いている最中に、あることを盛大にやらかした。

プロットポイントⅠに関わるキャラクターが、プロットポイントⅠに至るまでに、一回も出てきていなかったのである。

そのキャラは、プロットポイントⅠを経由して、第二幕で仲間になり、物語を二人三脚で進めていく、『マトリックス』でいうところの、モーフィアスのポジションにいるキャラだった(彼に倣って、そのキャラをMと呼ぶことにしよう)。

シーンのイメージで例えるなら……、そうだな。モーフィアスの名前が作中に一回も出てきていなくて、ネオもモーフィアスのことを全く知らないまま、薬を選ぶ例の館に来たって感じだ。

でも不思議なことに、ネオもモーフィアスも、お互いのことを知っている。二人とも、お互いのことには全く触れず、知り合いとして、薬を選ぶシーンが始まる。因果関係がめちゃくちゃである。

■NICE JOKE

大間抜けなことに、プロットポイントⅠを書き始めるまで、それに気づかなかった。プロットポイントⅠの物語における重要性のことを思えば、かなりクリティカルな失敗だ。モーフィアスが第一幕で全く出てこない『マトリックス』なんて、あり得ないだろ?

頭の中はパニックで、緊急警報が鳴り響いている。こんな大きな矛盾を放置して、先に進んで大丈夫なのか?今まで書けていたのはおめでたい勘違いで、自分にはやっぱり、長編を書く脳みそなんてないんじゃないのか? 今さらどうやって変更を加えればいいんだよ!?

今までぼくの情けない話を何度も話してきたけれど、この時の対応ばかりは、人に誇っていいものだと自負している。

ぼくはこの、長編執筆最初の危機をどう乗り越えたか?

答えは、「フィールドの教えに従って、無視した」だ。

この時ぼくは恐怖心を押し殺して、フィールドの教えを信じることにした。今はとりあえず無視して書き進める。そして、後から直せばいいのだ。

ぼくは開きっぱなしにしてある「秘密兵器のとあるファイル」に、こう書き込んだ。「Mが出てきていない。□□までに、Mを登場させておくこと」。

登場シーンをどこにするとか、どんな登場シーンにするかとか、そういうことは何も考えていない。解決策も何も考えないまま、「秘密兵器のとあるファイル」に事実を書き込んで、執筆を再開した。

結果、主人公とMは設定上も、原稿の上でも全くの初対面にも拘わらず、まるで面識があったように振る舞い、仲間になり、物語は進んだ(つまり、原稿上では矛盾がある状態を放置して、そのまま書き進めた)。「どこかで顔見知りになっていた」ことにして、解決策を未来の自分に投げたのだ。

できるかどうかはわからなかったが、気になったところは後から直せると、フィールドが言っているのだ。だから、それを信じることにした。

この判断は、ぼくに二つの恩恵を与えてくれた。

一つは、執筆を止めないですんだこと。

これがマジで大きい。それまで、迷いなく進んでいたタイピングが、このトラブルで止まっていたら、ぼくの運命は間違いなく、悪い方向へ向かっていたと思う。

躓いた場所で立ち止まり、このトラブルの解決に3日かかっていたら、どうだっただろう?

「オープニングまでここまで書いてこれたのはたまたまで、実は、構成なんて最初っから、自分には無理だったんだ」と、座り込んで、それっきりになってしまったかもしれないのだ。

今までの好調を勘違いだと誤認し、自信とモチベーションと、ハリウッド脚本術への信頼が砕けるまで、時間はかからなかっただろう。

冷静に考えるとこの問題は、「プロットポイントⅠが実は決まっていなかったから、書くことができなかった」とかではなく、単に、「やらなくちゃいけないことを忘れていた」だけである。焦ったが、ドアが開かなかったのは、ぼくが鍵を落っことしていたことに気づいていなかったせいである。それだけの話だったのだ。

こういう時、「書けなくなった」と自分の状態を誤認してはいけない。気づいたときは焦るが、この抜けと、あなたが長編を書けなくなることは関連しない。

忘れ物が気になって仕方がないから、他のことが手に着かないだけなんだ。忘れ物は預り所に届いている。やるべきことをやってから、取りに行けばいい。

二つ目の恩恵は、「意地でも完成させる理由」ができたことだった。

その原稿は最終的に、18万字近い量になった。それだけの文章を書き終えた後で、「Mが主人公に出会う方法が思いつかないのでお蔵入りにします」なんて選択を、とてもできなかったのだ。

正直、この問題の修正案は当時、最善のものとは思えなかった。「たまたま偶然、ちょっとした繋がりで出会い、第一幕のうちに少しだけ口を利く」という、我ながら無理やりなやり方だ。

ベストな気はしなかったけれど、他に手を思いつかなかった。そして実行した。好みの話をしている場合ではない。なんてったって、18万字がかかっているのだ。

面白いことに、完成した原稿を友達に見せたときも、メーカーの人に見せたときも、「この部分が無理やりすぎて気になる。偶然が過ぎる、ご都合主義だ」なんてこと、一度も言われなかった。

自分から「ここって、気にならなかった?かなり無理やり、後から付け加えたシーンなんだけど」と言っても、「え、そうなの?」と、まったく気にならなかったようだったし、なんなら、「自然に見えたけどなぁ」という言葉を貰ったくらいである。

今ではあの直し方は、あの物語にとってベストだったと思っている。当時自分で思っていたほど、ご都合主義な出会いではなかったのだ。必然的な「二人が出会うなら、ここしかないんじゃない?」ってところに収まったと、今なら言える。それは、完成させられたからこそ辿りつけた気持ちだ。

やばい問題に見えても、それは直すことができるし、初稿が上がれば全体がよりはっきり見える。引くに引けなくなって、やるしかなくなっている。先延ばしにしているだけのように見えるが、先延ばしにしただけでも、本当に良いことが起こっているんだ。

躓いたからといって、3日、1週間と原稿が進まないのは、気が滅入ってくる。そして結果的に、執筆が頓挫してしまうのだ。

執筆速度の点からも、作品を完成させるという点からも、厄介な問題は先送りにして、どんどん書いてしまった方が良いんだ。