4.4流通している物語のシーンを、実際に14枚のカードに起こしてみる

CARDステップ

では実際に、流通している物語のカードを並べてみよう。

ここでのサンプルは、フィールドの出した『テルマ&ルイーズ』という映画の例をそのまま引くのが適切だろう。

『テルマ&ルイーズ』は、旅行に出かけた二人の女性、テルマとルイーズの、逃避行を描いたロードムービーだ。

旅行に出かけた二人だったが、それが楽しいものだったのは最初だけだった。テルマは、バーで知り合った男、ハーランに暴行されそうになる。それを見たルイーズは、ハーランを射殺してしまう。追われる身となった二人は……、という映画だ。

この映画の第一幕は、こんな風になっている。

カード1 (オープニング)ルイーズが働いている。

カード2 ルイーズがテルマに電話をする。

カード3 テルマとダリル。旅行については聞かない。

カード4 テルマとルイーズは荷造りをする。

カード5 ルイーズがテルマを拾う。

カード6 山に向かって車を走らせる。

カード7 テルマが途中休憩したがる。

カード8 何か食べて休憩するためにシルバーブレットで止まる。

カード9 ハーランがテルマを口説く

カード10 酒を飲み、お喋りをする

カード11 ハーランとテルマがダンスをする。テルマ、気分が悪くなる

カード12 ハーランがテルマを外に連れ出す

カード13 ハーランがテルマをレイプしようとする

カード14 (プロットポイントⅠ)ルイーズがハーランを殺す

(Field 2005: p.237)

本編と見比べながらだとさらによくわかるが、シーンもシークエンスも、結構ごちゃまぜになっている。「1シーン(『シーン』か『シークエンス』)を1枚のカードに書く」というルールのとおりね。

例えば、カード3はシークエンスで、テルマとダリルの会話の後、ダリルが出ていくシーンが入っている。

ものすごく厳密な話をすると、場所が変化しているから、テルマとダリルの会話とは別のシーンになるわけだけれど、「テルマとダリル。旅行については聞かない」というシークエンスとして1枚のカードに収まっているわけだ。これはほとんどおまけのような形だけれどね。

1シーンを『シーン』の定義通り1枚のカードに書いていくと膨大な量になるけれど、シーンとシークエンスの「案」が混在していいのが、カードってわけ。カードは、案を書くところだからね。

他の例も挙げよう。『ダークナイト』のオープニングをカードに起こすとしたら、「カード1 銀行強盗」と書く。

その内訳はというと、ビルの屋上からワイヤーを発射したり、車に乗ってジョーカーについて話をしたり、銀行の中、金庫といった、複数のシーンが連なって出来ている。だがどれも、「銀行強盗」という物語の動きを表すものであり、シークエンスとしてまとまっているわけだ。

こんな風に、パラダイム上の点から、パラダイム上の次の点に向かって、カードを一つづつ積み上げていく。

その指標となるのは、サブコンテクストであったり、パラダイム上の次の点に至るまでに見せておきたい情報であったりする。

第一幕は特にそれが顕著で、オープニング、インサイティング・インシデント、プロットポイントⅠで、3枚のカード枠が消える。残るは11枚しかない。たった11枚で、物語に動きを与え、物語に必要な事前情報を見せ終える必要があるんだ。

この「やるべきこと」にプラスして、因果関係をはっきりさせながら登場人物を動かそうとすると、そりゃもう忙しい。それに、第一幕を長々とやると、物語がいつまで経っても本題に入らないから、読むほうもしびれを切らしちゃうからね。やることがいっぱいなんだ。

第二幕も、これに続く形になる。ピンチⅠは21枚目、ミッドポイントは28枚目……。こんな風に、パラダイムを見れば、既に物語のキーとなる出来事は、すべて載っている。

その繋ぎをどうするか、という話になった時に出てくるのがサブコンテクストで、プロットポイントⅠからピンチⅠまで、ピンチⅠからミッドポイントまでのサブコンテクストは、あなた自身がもう決めているはずだ。それに関連したシーンまたはシークエンスを、カードに書けばいい。

もし思いつかないようなら、BS2を使って、その空間にどんなシーンを入れるか、改めて考えてみるのもアリだ。

プロットポイントⅠからミッドポイントに到達するには、どんなシーン、シークエンスが必要だろうか?あなたが思い描いていたシーンは、そのサブコンテクストのどこに当てはまるだろうか?こういう風に考えて、カードを書いていく。

余談だけれど、『テルマ&ルイーズ』は人物の性格を画で見せる、という部分でも、非常に参考になる。

ルイーズとテルマ、2人が荷造りをしているシークエンスで、2人のキャラクターについて、映像で語っている。

身なりを整え、荷物をジップロックに入れてテキパキと準備を進めるルイーズに対し、テルマはパジャマを着たまま髪をセットし、服のカゴをひっくり返してトランクに詰め込む。護身用の銃をバッグに入れるときも、テルマはネズミの尻尾でもつまむように、おっかなびっくりだ。テルマがそんなことをやっている間にルイーズは準備を終え、洗い物まで片付けている。ここがカード4である。

それまでに、ルイーズが職場で逞しく働いている姿や、テルマが、夫のダリルの言いなりになっていることなども、シーンで見せてくれている。この段階で観客は、2人のキャラクターについて視覚的にかなりの情報を得ているんだ。

はきはきとして行動的なルイーズと、要領が悪く、強く出ることのないテルマ。たった4枚のカードで、2人の主要キャラクターについて説明し、生活、仕事、人物像についての情報を明かしている。オープニングから、ものの5分でこれだけのことをやっているんだ。これをナレーションで説明してしまうのは、あまりにも味気ないよね(あなたはこれまで、こういう部分で読者の「読み取る楽しみ」を奪っていなかっただろうか?)。

面白く書くための技術でもあるし、また、「書くべきシーンが見当たらない」というとき、「自分は、地の文の説明で済ませてしまっていないだろうか?」と考えると良い。これは、以前にも話したね。

シーンで伝えた方が絶対に面白い、流通している作品ならシーンに変換して情報を明かしているところを、地の文で済ませてしまう。これをやってしまうと、「なんか変、なんかおかしい、違和感がある」の原因になる。

それと、インサイティング・インシデントとプロットポイントⅠにの関係性についても参考にしやすい。

旅行に出た二人が、ある出来事によって、逃避行に出ることになってしまう。インサイティング・インシデントで牽引された物語が本筋に切り替わる例としても、良いサンプルになる。

余談の余談だけど、音楽も素晴らしいよ。その中でも、『The Ballad Of Lucy Jordan』は名曲だ。

「37歳になって彼女は気づく、花のパリを見ていないことを。スポーツカーを駆って、暖かい風に髪をなびかせて……」って。良くない?

古い映画ではあるけれど、構成の面でも描写の面でも参考になるし、曲だって素敵だ。是非一度、観てみてほしい。