パラダイムからシーンを作って行く、この際の詳しい手順について、知りたい人もいるだろう。
シーンを作るには、まず、そのシーンの文脈を作る。シーンの文脈とは、「そのシーンで物語上の何をするか?」である。
フィールドは、作者がこういったことを知っておくべきだと言っており、また、役者が演じるために必要な、提示しておくべき情報だと言っている。
そして、以下の3点を理解しておくのが、脚本家の責任だとも言っている。
これは、あなたが一人で書き、一人で完成させる物語においても、同じことが言える。役者ではなく、あなた自身の中にいるキャラクターに、あなたは責任を持つのだ。キャラクターは、あなたの言うとおりに動く。だからこそ、活き活きと動けるよう、あなたが責任を持つのだ。
シーンの文脈を明確にするのは、ラベル張りに似ている
文脈を作って行くことで、物語上にそのシーンが存在する意味が決まり、そこに台詞やアクションを加えることで、シーンにしていくことができる。シーンの文脈が決まれば、その内容を作って行ける。
これは、箱にラベルを貼るのに似ている。
ただの箱でも、「薬」とラベルを張れば薬箱になるし、「工具」とラベルを張れば工具箱になる。
まずは、空の箱に、ラベルをペタっと貼る。これでこの箱は薬箱になった。けれど、中身はまだ空っぽだ。
この箱を一杯にするには何が必要か? 風邪薬、胃薬、湿布薬などだ。さっきまで何を入れればいいかわからなかったが、薬箱と書いてあるなら、薬を入れればいいとわかる。
もしこの箱をいっぱいにしたくてたまらない理由があるならば、薬局に行って風邪薬や胃薬を買ってこればいいのだ。
この考え方を、シーンを作るときにもやればいい。
「ジョージィがペニーワイズに襲われる」というラベルを貼っておけば、そのラベルに沿った会話、アクション(行動)を、そのシーンで描けばいいとわかる。
「女子に除け者にされているベバリー」というラベルならば、トイレでごみを浴びせられたり、ひそひそ声で噂されるというアクションを描けばいいし、その女子たちの台詞を書けばいいとわかる。
実際にシーンを作ってみる
実際に、シーンを作ってみよう。
例えばホラー映画を書くとして、あるシーンの文脈を「昔この山で起きた悲劇について」とする。今回扱う怪物は山に住まう悪霊で、過去にも大きな事件を起こしていたのだ。
その情報を読者に伝えるという目的があるから、これは必要なシーンだよね。これがシーンの文脈だ。
この情報を地の文で説明しちゃうのは、いかにも味気ない。だから、登場人物の誰かの口から語ってもらうことにする。
そのためには、誰が、いつ、どこで、過去にこの山であった悲劇の話をするか、決めないといけない。ここで、「時間」と「場所」が関わってくるわけだ。
時間は夜、場所は山荘。掃除を終えて夕食、マシュマロ、ピザ、ビールをお供に暖炉の火の前で、嫌味な奴が語り始める。「そういえば、この山で昔……」。話の山場でヒロインを驚かせてひと段落。うん、いい感じだ。
ラベルを貼った箱に、対応する中身を入れていく。プラスして時間と場所の要素を組み込めば、物語のどの地点に来るシーンなのか、状況もつかめる。
文脈を画に、情報をシーンに変換して、読者に見せることができるようになったね。これで1シーン完成だ。
シーンの文脈を決めない=ラベルの無い箱
パラダイム上の点から次の点へ行くためには、大量の空箱を埋めていく必要がある。
その空箱にラベルを張り、中身のアイデアと、時間と場所を入れる。ラベルを張っただけでは、「伝えたい情報」が判明しただけで、その伝え方について、不明なままだ。箱には中身を入れないといけない。
このままでは、どんなシーンを書けばいいのか何もわからない。時間、場所、何を通してこの情報を伝えればいいのか、何も書いてないからだ。
だから、そのシーンの文脈、見せたい情報、見せないといけない情報に、物語を画で見せるために必要な要素、配置するために必要な要素をプラスする。こうすることで、書くべきシーンが何かを知り、作ることができるようになる。
「場所」と「時間」を決めなかった場合
「場所」と「時間」は、シーンを作る際、必ず決めておくべきものだ。
どうしてこんな当たり前のことを口を酸っぱくして話すかというと、自分が詳しくないシーンほど、ここを疎かにしがちなんだ。
結構やりがちなミスで、文脈だけを書いて、場所も時間も決まっていない、という状態でシーンを作ろうとしちゃうことが、結構あるんだよね。
けどここをスルーするのは、見た目以上に結構リスキーだ。はっきり言って、めちゃくちゃ危ない。サイドミラーを確認せずに発進するくらい。
時も場所も決めていないってことは、そのシーンが本当にその地点でいいのか、そのシーンで何を映すのか、わかっていないってことだ。
伝えたい情報が決まっていても、それを伝える手段について、何も決まっていない。
いざ書き始めて思いつけばいいけれど、そうでなかったとき、執筆は簡単にストップしてしまう。もしくは、入れる地点を思いつかなかったシーンの山と、スカスカの原稿を見る羽目になる。
たとえ書けたとしても、それによって、予定になかった内容を書くことになる。そうなった時、全体に変更が必要になったら? こうやって、一つの躓きが連鎖していく。
顕著なのは場所で、場所が決まっていないというのは、シーンに映す画が決まっていないという事に繋がる。
お気に入りのキャラクターが会話しているシーンは、何度思い返しても楽しい。けれど、そのキャラクターたちは、真っ白な背景で会話をしているわけじゃない。そこがどこで、どういう映像になるのか。あなたがわかっていないと、書くことはできない。
小説は文字を通して、読者に映像を想像させる。なのに、読者の頭にどんな画面を想像させるのか、作者が決めていないんだ。質の面から考えても、これはまずい。読者がつまらない以上に、あなたがつまらない。それはやがて苦痛になっていく。
画が決まっていないシーンが連続すると、それが露骨に表れるね。「主人公の悩み」と書いたカードを終えて、「この世界の説明」ってカードも書き終わった。けれど何かがおかしい。
そう、主人公の悩みは地の文を使って語られているだけで、世界の説明も、地の文を使って語られているだけだったのだ。場面を想像できないシーンが連続したことで、頭の中に浮かぶ映像が、無くなってしまっている。違和感の正体はこれだ。
読者も当然それを感じているし、下手をすると、「つまらない」と切って捨てられる可能性がある。それにこの違和感は、確実にあなたが続きを書いていくモチベーションを奪う。
「時間」と「場所」をきちんと決めておくことは、こういう躓きを予防するためにも、必ず決めておいてほしい。