1.CARDステップへようこそ!

CARDステップ

物語を構成する最後の一歩について、このステップでは扱う。

パラダイムを書き、BS2を埋めた。あなたはあなたの物語の全体像を知ったわけだけれど、あと一つだけ、構成のために学ぶことがある。

パラダイムを個々のシーン、カードに変換して、積み上げていく方法についてだ。

■パラダイムはカードに変換して使う

ここまで長かったけれど、ぼくらがカード書きのプロセスに至るまでには、本来ならこれくらいの準備が必要だったんだ。そしてこれからカードを書いていくわけだけれど、そこにも、失敗を防ぐやり方というのがある。このステップではそれを覚えていこう。

カード書きは構成の最後の詰め

そもそもパラダイムが目に見えないのはなぜだろうか?

それは、ぼくたちの目に映るのがパラダイムではないからだ。作品を観るとき、読むとき、ぼくらの目に映るのは物語の構成ではなく、その構成によって積み上げられた個々のシーンたちだ。

パラダイムとBS2を使って、全体の把握を徹底的にやってきた。ここからは部分の把握をしていく段階だ。個々のシーンの積み重ねをどうやってやるか、それを知ることがパラダイムを作品に変換するキーとなる。

カードを書く前にあと一つだけ、あなたに学んでもらいたいことがある。キーボードが恋しいと思うけれど、あと少しの辛抱だ。

リアル路線のホラー映画を一つ、思い浮かべてほしい。チェーンソーを持った怪物に60分も追い回され、最後は頭脳プレイで、高圧電流を浴びせてやっつけた!

その場でヒロインと抱き合う主人公。カメラは動き、怪物は画角から外れて……。おいおい、きちんととどめを刺すなり、拘束しておけってば。でないと……、ああっ、怪物は気絶していただけだったのだ!

最後の詰めを誤ったがゆえに、このホラー映画の登場人物は、全滅してしまった(なってったって、リアル路線の映画なのだ)。60分間、必死で逃げ回ったのに全滅エンドはいくらなんでも気の毒である。

構成でも、詰めを怠るとこういうことになりかねない。パラダイムを使ってうまく立ち回っても、気を抜くにはまだ早いのだ。

スピーディーにカードの話に移れないのは心苦しいのだけれど、ここまで積み上げてきたものを無駄にしないために、あと少しだけ付き合ってほしい。

プロットとカードの関係

まずは、プロットとカードの関係について話をしておこう。

以前少し触れたけれど、ぼくは「プロット」という言葉があまり好きじゃない。

「プロット」という言葉が何を示すのか、曖昧だからだ。ぼくが「プロット」という言葉を使うのは、「プロットポイント」という単語に含まれている場合と、この言葉を使った方が、通りがよさそうなときくらいだね。あとは、「世に言うプロットというやつ」を指すときかな。

Wordに箇条書きをする、箱書きや、ツリーを管理するソフトを使う、一枚の大きな紙に書く、カードに書く。どれをやるときも、一律して「プロットを書く」と言われる。

その際のルールも、必要条件もナシ。「原稿の前段階」なら、何もかもひっくるめて「プロット」と呼んでしまえるような状態だ。

そもそも、「プロット」って言葉の和訳を知っている人が、どれくらいいるんだろう? あの人の言うプロットと、別のあの人の言うプロットが同じものを指しているかもわからない。そんな言葉が、どれだけアテになるのだろうか。これがプロットというマジックワードの怖いところだ。

パラダイムとBS2、両方を埋めたあなたの下準備も、専用のソフトを使って作られたプロットポイントⅠが抜けている下準備も、どちらも「プロット」なのだ(もしあなたの友達が「プロットを書いたのに長編が書けない」と悩んでいるようなら、パラダイムに必要な要素を一つづつ確認してあげてほしい)。

あなたはここまでパラダイムやBS2を学んできたわけだけれど、それについて、「プロットの書き方を勉強したんだね」と友達に言われたら、「厳密には少し違うんだけどね」と、訂正したくなると思うよ。「えっと、ちょっと違うくて、物語そのものの形と、それを補助する、ハリウッド映画のテンプレート的なの(ああ、確かにテンプレートという言い方は、通りが良いなぁ)なんだけれど……」ってね。

多くの人からすれば、ここまで学んできた内容だって、「プロットの書き方」でしかない。けれど、それが一般に言う「プロットの書き方」とは全然違ったアプローチであることは、あなたが一番よくわかっているはずだ。

このテキストでは、「プロットを書く」という言葉は極力使わず、「カードを書く」と表現することにしている(そしてぼくと話をするときも、できれば使わないでほしい)。この先もそうするよ。

その方が、頭も切り替えやすいからね。あなたはこれからプロットの書き方を学ぶのではなく、カードの書き方を学ぶのだ。

パラダイムとBS2で準備を整え、全体を確認した。次はカードを書いて、一つ一つのシーンを積み上げていく。こうやってできたカードの束がそのまま、あなたが執筆の際に使う、下準備の最終形になる。そのカードが、世間一般で言う「プロット」の役目を果たす。

■カードの完成=プロットの完成

カードを書く作業を終えることが、プロットの完成という事になる。

カードを見れば、あなたがあなたの物語について、どこにどの順番で何を書くか、確認できるようになっている。全体像を把握、確認するときはパラダイムを使い、部分を確認するときはカードを使うんだ。

BS2を補助として書いたパラダイムを、カードに変換する。この作業を経て、個々のシーンの内容や配置を、確定させていくわけだ。何をどこに書くべきか、書けるくらいまで具体的にしていく。

パラダイムとBS2は全体像を明確に把握するためのものであり、カードは個々のシーンを知るためのものだ。入れ替えたり眺めたりしながら、1枚づつ積み上げていく。出来上がったカードを確認すれば……、そう、「どこに、何を書くか」なんて、一目瞭然じゃないか!

カード書きというプロセスを経て、あなたはあなたの物語においての、「どこに、何を書くか」を知ることができる。

ここまで自分の物語について具体的にわかっているなら、毎日の執筆だって楽々だ。書く内容が決まっているなら、後は手を動かすだけ。考える時間は減り、あなたの執筆速度は純粋なタイピング速度に近づいていく。沢山書ければ楽しいし、浮いた時間で思いっきり、表現にこだわることもできる。個々のシーンについて内容を具体的に知るのは、良いことでいっぱいだ。

カードを書くにあたって、知っておかねばならないこと

さて。ぼくは、構成について学んだあなたに、これ以上、何を学ばせる気なのだろう?

答えは、シーンについてだ。ぼくはまだあなたに、シーンについての話をしていない。

こういう疑問を抱いたことはないだろうか? カードでプロットを作るとして、カード1枚に、何を、どれだけ書く必要があって、その上限はどれだけなのだろう、と。

あるカードは2枚目が欲しいくらいみっしり書いてあるのに、別のカードは、数行で終わっている。こんな経験はないだろうか?

■カードの文章量が、なぜこんなに偏る?

何がまずいのかはわからないが、何かまずそうだ。嫌な予感がする。もしかして、どこかで執筆は頓挫してしまうかも……。

カード1枚に1シーンを書く、と一口に言っても、1シーンはどう定義されるか、知りたいところじゃないかな。

ここの定義が曖昧だと、1枚のカードの情報量はまちまちになってしまうし、それによって、必要な情報が抜けるという現象も起こる。

カードの書き方について学ぶことは、シーンの書き方について学ぶ必要があるってわけ。カードを書くという事は、シーンを書くことなのだ。

より良いシーンの書き方、間延びしないシーンの作り方なんかにも触れるから、楽しみにしていてほしい。確認事項を済ませて、ぱっぱといくぞ!