3.3あなたの鬱展開は何に分類されるか?

A&Cステップ

前回話したように、鬱展開は書いても良い。第一幕で行った状況設定から、読者に何を期待させたかによってコントロールできるからね。

このとき大切になるのは、その物語の鬱展開がBS2上の何に分類されるか、正確に判別することだ。『お楽しみ』として鬱展開をやるのか、『迫りくる悪い奴ら』として鬱展開をやるのかという具合にね。

「どこに、何を書くか」を知ることが、物語を書く上で大切になると言った。同じくらい、自分が書こうとしているシーンが物語上どんな意味を持っているか知ることも重要になる。

例えば、サム・ライミ版『スパイダーマン』における、ベンおじさんの死だ。

もし一度でも観たことがあるのなら、再視聴する前に思い出してみてほしい。そしてこの先を読み進める前に、3分ほど考えてみてほしい。ベンおじさんが死ぬのは、BS2における何に当てはまるだろうか?

スーパーパワーを得たピーターは、ベンおじさんの教えを聞かずに利己的に力を使う。しかも、ある出来事への腹いせに強盗を見逃す。だがベンおじさんは、その強盗に命を奪われるのだ。ピーターが強盗を止めていれば、ベンおじさんは命を落とさずに済んだ。

字面だけ見ると、ミッドポイントや、『迫りくる悪い奴ら』に以降に分類されそうなシーンたちである。人間関係に入った亀裂、身内の死など、そう判断してしまいそうな要素は多い。

が、これが配置されているのは、第二幕前半である。ベンおじさんの死は、『お楽しみ』の一部なのだ。

せっかくクモのスーパーパワーを楽しんでいたのに、身内が命を落とすことを、誰が期待するだろう?一見、これは間違いであるように思える。でも、よく見ると、確かに『お楽しみ』の一環なのだ。

その理由は、『スパイダーマン』という物語が、スパイダーマンの物語ではなく、厳密には、「スーパーパワーを手に入れた、ピーターという青年の物語」だからだ。スパイダーマンになることは、その一環でしかない。

「もし、冴えない青年がある日突然、クモのスーパーパワーを手に入れたら?」に応えるとして、いきなりヒーローにはならない。『デスノート』で第二のキラが出てきたときに言われたように、普通は自分の出世や利益のために、超人的な力を使うのだ。ピーターも最初は、その力を自分のために使う。

しかし、ベンおじさんは言った。「大いなる力には、大いなる責任が伴う」と。その言葉の意味を知り、力の責任を果たそうとしたとき、ようやくピーターは街を守るヒーロー、あのコスチュームのスパイダーマンになったのだ。

力を得た青年が、その力を利己的に使い、力の責任に気づき、行動によって果たす。こういう形で、「もし、冴えない青年がある日突然、クモのスーパーパワーを手に入れたら?」という期待に応えているのだ。スパイダーマンではなく、ヒーローとなるピーターの物語なのである。ここを正確にとらえられると、物語をよりはっきりと見ることができる。

ベンおじさんを失ったのは、ヒーローの誕生に関わる『お楽しみ』の一つなのだ。ピーターも、おじさんを失ってから打ちひしがれるようなことはなかった。大きなショックは受けたが、その言葉を受け止め、立ち止まらず、きちんと行動に移す(ここでピーターが悲しみに打ちひしがれ、身動きが取れなくなってしまうと、それはもう、観客にとって楽しいものではなくなってしまう)。

心に大きな傷を残しはしたが、ピーターは、それを乗り越えたのだ。ベンおじさんを失うことは、この物語にとって「乗り越えられる困難」に分類できる、『お楽しみ』の一部でもあったというわけ。

■身内を失うことが、『お楽しみ』の一部である場合もある

単に「仲間(身内)を失う」という現象単体で考えるのではなく、それが物語においてどんな役目を持っているか考え、BS2のどの要素に当てはまるか、正確に判別する。

BS2を使えば、鬱展開を変な場所に配置してしまう間違いは防げる。が、あなたが書きたいそのシーンがBS2のどの分類になるかを見誤ってしまうと、BS2は本来の力を発揮できない。

レシピに従って塩を入れたはずなのに、食べてみると美味しくない。よくよく確認してみると、砂糖の容器に「塩」と書いてあった。こんなことを起こさないために、BS2を自身の物語に当てはめて使うときは、書きたいと思ったシーンがどの要素に分類されるか、きちんと判別しておく必要があるんだ。

■正確な分類が、BS2を使いこなすコツ

BS2を学び始めた直後から、自分の物語をBS2に当てはめて考えている人は多いと思う。もしBS2における要素の配置場所と、自身の物語のイメージに矛盾を感じているところがあるなら、一度、「本当にそのシーンは、BS2における○○なのか?」と再検討してみてほしい。

似たような話の繰り返しになるが、「日常シーン」という分類がないように、「鬱展開」という分類もないんだ。キャラクターにとって憂鬱で悲惨な内容が、読者にとっての『お楽しみ』である場合もあるんだからね。