2.3あなたの物語の売りを書くべき場所

A&Cステップ

第二幕前半、『お楽しみ』は、あなたの物語の売りを書くべき場所でもある。

あなたは、『シャークネード』というテレビ映画を知っているだろうか?

竜巻によって、サメが海水と共に巻き上げられ、街にカリフォルニアの街にやってくるというモンスター・パニック映画だ。荒唐無稽さが光るいかにもな映画だが、大当たりして続編が5本も作られた。あと、Tシャツにもなった。

この物語の売りは何だろうか? それは、大水によって都市に襲来したサメと竜巻の組み合わせだ。

サメ×竜巻の脅威というこのシチュエーションが、この映画の独自色であることは、断言してしまってもいいと思う。知らない人も多いかもしれないが、実は通常、サメは道路にいないし空も飛ばないんだ。

もし、サメが洪水と竜巻によって、カリフォルニアに襲来したらどうなる?結果、200万ドルの製作費が付き、続編が5本作られた。こんな物語を書く方も書く方なら、200万ドル出す方も出す方である。

想像できるだろうか?あなたの部下が、映画の脚本を持ってきた。彼は言う。「サメ×竜巻の映画なんですが、最高にクールです。予算を200万ドルください。必ずそれ以上売り上げて、突っ込んだ200万ドル以上のお金になります」

■彼はきっと疲れている

200万ドル、つまり2億円だ。こんなお馬鹿な物語を2億円かけて映像化し、利益まで産むという。彼は働き過ぎで、頭がどうかしてしまったのではないだろうか。休みを与えるべきかもしれない。

みんなはどうしたかというと、こぞってこの映画を観た。サメと竜巻の組み合わせが何を見せてくれるのか、その目で確かめたかったからだ。

テレビ映画なこともあって、普通の映画のような興行成績のソースは見つけられなかった。よってこの例えのように投資が倍になったかは知らないが、続編を5本も作ったのだから、当たったのは間違いない。

もう一つ、良い例を出そう。『スネーク・フライト』だ。こちらはサミュエル・L・ジャクソンが主演の映画で、ED曲『Bring It! (Snakes On A Plane)』は日本のカラオケにも入っている。

あらすじはこうだ。サミュエルはFBI捜査官で、マフィアの犯罪を目撃した証言者を護送するため、旅客機に乗る。しかし、マフィアのボスは証言者を消すために、機内に暗殺者を送り込んだ。大量の毒ヘビである(曰く、「他に手はない」らしい。他に手はなかったのだろうか)。

解き放たれたヘビたちは、着々と乗客乗員を毒牙にかけていく。果たしてサミュエルたちの運命やいかに……。と、こういう話だ。お馬鹿もいい所である。

DVDのパケージの裏面をみると、こう書いてある。「ヘビが、ジャンボをジャックする。」一言でどういう物語か教えてくれているし、どんなシーンを楽しみに見ればいいかも、すごく想像しやすい。

もし飛行機の中に大量の毒ヘビが送り込まれたら、何が起こる? どんなシーンが観れるだろうか? こういう好奇心を、チクチクと刺激してくれる。

第二幕前半で忍び寄るヘビの姿を、第二幕後半で、機内に蔓延したヘビとの闘いを描いているから、第二幕が丸っとおいしい。第二幕前半で「来てるって!ヘビ来てるって!」と言いたくなった数を、数えてみるといい。

物語の売りになる部分は、第二幕だ。特に、第二幕前半。状況設定は第二幕で『お楽しみ』を思いっきりやるための準備で、お客さんは第二幕の前半を観に来るのだ。

ちなみに、新しいものは掛け合わせで生まれると言うが、これらはまさにそれである。ヘビ×飛行機で、今回の製作費は3600万ドル。『シャークネード』の18倍である。どうかしている。ハリウッドの偉い人は、あまり頭が良くないのかもしれない。

ちなみにこれはあくまで製作費で、こっちはきちんと、興行収入が数字で出ている。6200万ドルだそうだ。

■OKを出した偉い人も、きっと疲れている

『タイタニック』がパニック映画なら、プロットポイントⅠで氷山にぶつかることになる。以前にこう話したよね。

『タイタニック』の売りはどこだろうか?二人の恋愛ではなかっただろうか? もし、ジャックとローズの恋愛が見たくないという人は、物語が始まってから船が氷山にぶつかるまで、何が楽しくて画面を見続けているのだろう。そういう人は、大人しく『シャークネード』や『スネークフライト』を観るべきだ。

『タイタニック』が恋愛映画だからこそ、プロットポイントⅠで二人は出会ったのだ。あの二人の恋愛を見せるのがメインなんだから。氷山にぶつかるのはエンディングへの梶切りだ。

しかしあのあの物語をパニック映画にしたいのならば、プロットポイントⅠで氷山にぶつかる。何故なら、パニック映画を観に来た人に、第二幕でパニックを見せないといけないからだ。氷山にぶつかることが、観客が期待しているシーンへの入り口となる。氷山にぶつかるという現象は同じでも、そこに含まれた、物語上の役目は全く異なる。

ぼくが映画を薦める中でこういう、ちょっとお馬鹿で、出オチ気味なものが多いのは、「売り」となる部分がわかりやすいからでもある。

「『ダークナイト』の売りってどこ?」とか「『ショージャンクの空に』の売りってどこ?」と聞いても、中々イメージしづらいと思う。一般の人なら、「『ダイハード』の売りはどこ?」とか、「『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の売りはどこ?」と聞いても、即答は難しいかもしれない。

対して、『シャークネード』や『スネークフライト』はイロモノだ。濃い味だから、その物語の強み、他の作品と差別化されている部分が、とてもわかりやすいんだよね。

それに、「この物語のテーマ(一般に使われる方の『テーマ』ね)は……」とか、「○○が○○を隠喩していて……」とか、高尚で難しい話も、イロモノ映画ではしなくて済むし、聞かなくて済む。「サメと竜巻を組み合わせた脅威! ヘビが飛行機をジャックした! 大変だ楽しそう! 気になる!」これでいいのだ。

「この物語のメッセージは……」とか、「○○が感動を生んでいる」とか、「この物語は、○○に警鐘を鳴らしていて」なんて話を、真顔でするのがばかばかしくなるくらいの物語が、サンプルにするにはちょうどいい。

■イロモノならではの利点

物語の強み、美味しい部分、売りになる部分は、第二幕前半に書くのだ。売りになる部分がわかりやすいと、それだけでも物語がわかりやすくなる。そして、期待したものがきちんと出てくると、読み手は「期待に応えてくれた」と感じるのだ。

上の2作品を観たとき、いつまで経ってもサメもヘビも出てこないなら、誰だってしびれを切らす。準備を終えたら、すぐにサメやヘビを出してほしいのだ。

第二幕は物語の本筋だ。物語の本筋を楽しく、のびのびと書くために、あなたは第一幕で山積みになった「読者に見せておくべき情報と、それをどんなシーンに変換して見せるかのリスト」を、なんとか処理したのだ。あなたが見せたいシーンは、第二幕に詰まっている。第二幕に物語の売りを配置するのは何もおかしなことではなく、むしろ当然のことだ。

読者はそれを求めていて、あなたはそれを書きたがっている。両者の利害は一致し、そのための準備は第一幕で終わっている。

「本日のオススメは、霜降り和牛ステーキとなっております」と言ったら、お客さんは「じゃあ、それを食べようかな」と注文した。ウェイターが第一幕で、シェフはあなた。やることは一つ、注文の品をきちんと食べさせてあげることだ。