よく使われるたとえ話だ。テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼ。これも難しい話に聞こえるが、今となっては、どうとでも説明できる。三幕構成の知識があれば簡単だ。
テーゼが第一幕、アンチテーゼが第二幕、ジンテーゼが第三幕。はい終了。
もともと、テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼというのは、ヘーゲルという哲学者が唱えた、『弁証法』という名前の、「変化のプロセス」なんだそうだ。
ある状態から、相反する別の状態に入り、最後、そのどちらでもある状態へと移行する。
「世の中には善い人しかいない!」という小学生が、「世の中は悪人しかない!」という中高生に変わる。これがテーゼとアンチテーゼ。そして大人になると「世の中、善い人も悪い人もいる」となる。両方を受け入れているのだ。これが最終形のジンテーゼ。
『マトリックス』はこの典型だ。第一幕と第二幕で、普通の男が、いきなりヒーローになる。けれど、第三幕ではどうなる? ただの男であることを受け入れ、それでいて、ヒーローでもある。
ここまで明確な対比になっていなくてもいい。
『タイタニック』では、二人がお互いを知る前の世界、知った後の世界、命を賭しても一緒にいたいと決めた世界。
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』なら、ペニーワイズを認識する前の世界、認識した後の対策の世界と、立ち向かうことを決めた世界。
推理モノなら、事件や謎のない世界、謎のある世界、謎を解いた後の解決編の世界。
第一幕でテーゼを示し、プロットポイントⅠによって、アンチテーゼの世界へと入る。そして、プロットポイントⅡを経て、そのあとどうなるかを、ジンテーゼで示す。テーゼという『状況設定』、アンチテーゼという『葛藤』、ジンテーゼという『解決』。
「テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼと、変化する世界を書くのです」なんて言われると、いかにも高尚な内容に思える。創作における実態は、たったこれだけの話なんだ。
パラダイム上の要素やBS2に比べたら簡単すぎて、説明に手を抜いていると疑われかねないレベルだ。けれど本当に、たったこれだけの話だよ。
『状況設定・葛藤・解決』で考えるのと、できるものは変わらないんだ。
似た種類の考えを知っておくことは、アプローチの幅が広がることに繋がる。『状況設定・葛藤・解決』だけで3つの幕の文脈を考えるのが難しいと感じたときには、『テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼ』という方向から、考えてみるといい。起こる現象は同じだ。
三幕構成と似たような現象を起こせる創作ハウツーは多い。三幕構成も起承転結も、テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼも、根っこのところでは繋がっている。
引き出しが増えたのだから、使ってみよう。今のあなたには、使えるだけの知識や考え方が備わっている。それで考えやすくなるなら、それでいいのである。