4.3ITVSBS2

CUNNINGステップ

さて。長かったね。それでは、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の発展形のパラダイムを使って、かつ、BS2にも当てはめてみよう。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のパラダイム

■『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のパラダイム

まずは基本形がこれだ。何度も言うようで申し訳ないが、指しているシーンが同じならば、どんな言葉でそれを表してもOKだ。ぼくと同じ言葉を使う必要はない。

テーマについて話した時のように、よそ行き用の言葉で表すこともできれば、自分用に、極めてシンプルに言い表すこともできる。ぼくとしては、シーンそのものに名前を付けるような形か、作中の台詞をそのまま使うことが多い。もしイメージしやすい表現があれば、言葉は好きに選んでもらって大丈夫だ。

そして次が、パラダイムから導き出した、各幕の文脈と、サブコンテクスト。

■『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の文脈とサブコンテクスト

文脈やサブコンテクストを示す言葉は、シーンを言い表す以上に、好みや個人差が出る部分だ。こちらも、好みの言葉を当てはめて貰って構わない。各ポイントが正確に決められていれば、そう大きなズレにはならない。

前提になる情報はこのくらいにして、今度は、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』をBS2に当てはめた場合どうなるかを確認していこう。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は新しい映画だ。スティーヴン・キングが原作を書いたのは大昔だが、近代的な脚本の手法によって再構成されている。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は、映画としては『マトリックス』などに比べてずっと新しい。BS2が十分ハリウッドに浸透しきった後に、脚本化された物語だ。だから、「BS2に則って書かれた世代の脚本」と言っても過言ではない。まんまBS2で書かれているから、格好のサンプルになるよ。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』をBS2で分析する

1 オープニング・イメージ(1%)

雨の降る薄暗い街。明るいとは言えない音楽からも、この映画が恐怖にまつわる物語であると伝わってくるね。この1%目で、この物語が明るいホームドラマやコメディであるとは、誰も思わないだろう。この物語は、この薄暗い街にまつわる物語である。

2 テーマの提示(5%)

この作品では、主人公から離れたシーンで、暗示的にテーマを示している。ビルではなく、後にルーザーズクラブ入りを果たす、マイクについてのエピソードだ。

家畜小屋で、羊の頭にボルトを打ち込むことができずにいるマイク。マイクは祖父に、そのことについて説明を受ける。「行きつく先はどちらかだ。俺たちのいるこっち側か、羊のいるあっち側か。ぐずぐずしてると人に行き先を決められて、気付いた時には眉間に銃を突きつけられる」。これがこの物語における、学ぶべき教訓となる。羊は町の人間で、羊を殺す側にいるのがペニーワイズだ。

第二ターニング・ポイントの後、ルーザーズクラブ再集結の時、マイクがボルトを打ち込む空気銃を持っていることがカメラによって強調される。このことからも、制作側があえて象徴的に見えるよう撮ったことがわかるね。

ちなみにここは、地上波ではカットされている。物語の大筋に影響を与える変更ではないけれど、こういう細かい部分を分析するときはどうしても、弊害が出てしまうね。

3 セットアップ(1-10%)

ビルの家。ビルは病気で、ジョージィはこの雨の中、外で遊びたがっている。船を作るために地下へワックスを取りに行くジョージィ。そこにはすでに、この物語の恐怖そのものが見え隠れしている。

4 きっかけ(10%)

この物語の『きっかけ』は、10%のところにはなく、物語の最初にあるパターンだね。

船が完成し、外へ出ていくジョージィ。船はどんどん進んで、排水溝に落ちてしまう。中をのぞき込むと、「ハァィ、ジョージィ」とペニーワイズが現れる。ジョージィが手を伸ばすと、ペニーワイズはジョージィを引きずり込む。こうしてジョージィは、人知れず命を落とした。

セットアップの続き

学校での状態などを流す。ここで、ビルの人間関係や、ルーザーズクラブと呼ばれているという現状の説明、ベンやベバリーの状況について、事前の説明が行われる。

5 悩みのとき(10-20%)

ビルは父親に下水管のモデルについて話すが、ジョージィを諦めるように言われる。それでもビルがジョージィを諦める気がないという意思が、ここで示される。父親に怒られても、ビルはジョージィ探しをやめる気はない。遺体が出たわけではないのだ。

同様に、下水に入る際も、ビルはルーザーズクラブの他メンバーの静止を振り切る。ビルはまだ何も知らないが、暗い未知の世界へ足を踏み入れる意思を見せている。

また、ここ以外にも『悩みのとき』に分類されるシーンがある。マイクがドアの裏から焼けた手や煙、叫び声といったものに遭遇する。スタンが絵の怪異に触れるのも、ベンが図書館で風船を目撃するのも、全て、『悩みのとき』だ。

ビルに対しては直接的に、他のメンバーには間接的に、「第二幕へ進む気はあるか」と聞いている。第二幕に何があるか、この時点では、だれもそのことを知らない。けれどこの先に恐怖があるのだけは確かで、それを念押ししているのだ。

6 第一ターニング・ポイント(20%)

ビルたちはここで、行方不明になっていた女子の靴を見つける。失踪したはずの女の子の靴が、こんなところにあるはずがない。街では何かが起こっている。それを確信する。『悩みのとき』で見せた意思に、確信が加わった瞬間だ。

同じように行方不明になったジョージィも、下水に関係しているに違いない。

7 サブプロット(25%)

と、ここで、不良に追い立てられたベンがやってきた。そして、ベバリーも合流。新たな仲間を迎え入れると、採石場で泳いだりして、親交を深めていく。ここはサブプロットとして、尺を割いていい部分だ。

ベバリーは本作のサブプロットとして、ベンは井戸の家の情報を運んでくる人物として、「単なるサブキャラのエピソード」にならないよう、ビルたちと一緒に物語を前に進めている。

8 お楽しみ(20-50%)

新たな仲間を迎え入れるのも大切だけれど、第一ターニング・ポイントを終えてすぐ、哀れな不良が下水道を歩き回る。ベンを追ってきたのだ。怪物の住処に足を踏み入れたいじめっ子の不良となれば、同情の余地も慈悲もない。ペニーワイズが人を襲う! サブプロットに本格的に入る前に、この映画のおいしい部分、町の怪異についてきちんと触れている、ナイスプレーだね。

『お楽しみ』には『サブプロット』も含まれているから、ここからは再びサブプロット。調査結果の話に移り、ビルが「その井戸はどこに?」と、物語のキーとなる古井戸について言及する。こうしてベンの家で事件について話すことが、ピンチⅠだ。新しい世界で合流したベンという人物がもたらした新情報により、物語が前に進んだ格好だね。

ミッドポイントまでは、ペニーワイズの攻撃を受けながらも、個々の事件から町の異変の周期性、ペニーワイズの形態のメカニズムなど、順調に調査が進んでいく。ある意味ここはプロレスであり、ここでは両者、本当にクリティカルなダメージを追うことはない。だからこそペ二―ワイズは存分に、ルーザーズクラブの面々を恐怖させられるわけだ。

9 ミッド・ポイント(50%)

ミッド・ポイントは27年に一度のサイクルでこの異変が起こっているという事実を知り、そのすべてが井戸の家に繋がっていると判明するところだ。これはまだ仮の勝利である。

大きな前進ではあるが、話はまだ終わっていない。しっぽを掴まれたペ二―ワイズは、ルーザーズクラブがそろっている中で姿を現す。

パラダイムの視点で見た場合、井戸の家が異変の原因であることがわかることにより、前後の文脈が変化する。第二幕前半は所謂「調査パート」だったが、敵が明確になった第二幕後半では「戦いパート」に入っていくという具合だ。これまで受け身だったビルたちだったが、この情報をもとに、町の異変に対して攻勢に出ることが可能となる。井戸の家には何かがあるのだ。

10 迫りくる悪い奴ら(50-70%)

彼らは町にいる怪異の尻尾を掴んだが、怪異もまた、尻尾を掴まれたことを知覚している。恐怖したメンバーは軽度な分裂を起こすが、まだ影響は小さい。

町に巣食う怪異の本拠地に乗り込んだビルたちだったが、ここでは手酷い敗北を味わうことになる。羊は所詮、羊なのだろうか? 

ホラー映画としてみた場合、ここはペニーワイズの見せ場でもあるから、ペニーワイズは強い。

「魅力的な物語には、魅力的な強敵が必要」と言われるのも、このセクションを際立たせる必要があるからではないかと、ぼくはにらんでいる。ミッドポイントまでの段階では、ペニーワイズは子供を怖がらせるだけの存在でしかなかった。怪物が本気でかかってくるからこそ物語は深刻さを増すのだし、倒した時の喜びも大きい。

そして、悪役の新たな一面を描くセクションだからこそ、ペニーワイズの様々な能力を、披露することができる。より一層、魅力的で強い悪役を、描けるわけだ。そしてその力は、主人公たちに確実な爪痕を残すほど強大なのだ。『すべてを失って』に通じるダメージを、ここで受ける。

11 全てを失って(75%)

エディは過保護な母親に連れていかれ、その上、この件に関わりたくないと明言までした。他のメンバーも散り散りになる。ジョージィを探すどころか、第一幕の頃からいた仲間まで失ったビル。結束を訴えるベバリーの声すら、今の彼らには届かない。まさしく、最悪の状態だ。

そして、分裂した彼らの様子が描写される。立ち上がる者がいない中、ペニーワイズは町の不良を手駒にして、さらに力をつけていく。

12 心の暗闇(75-80%)

居場所を失ったベバリーは、父親の叱責に耐え続ける。貰った詩について、ルーザーズクラブの面々について。彼女は屈さず、父親と戦う。が、はずみで父親を手にかけてしまう。これで確かに、悪い奴を一人は倒した。けれど果たして、これは手放しで喜べるのだろうか? 出現したペニーワイズは、ベバリーを掴む。

その後、ビルがベバリーの家に来た時、バスルームにメッセージを見つける。「逆らえば死ぬぞ」。ベバリーは攫われたのだ。

13 第二ターニング・ポイント(80%)

これをきっかけに、ビルたちは再び集まる。この際、マイクの空気銃が『テーマの提示』と関連し、彼らが羊の側から脱したことを表しているね(ここまで明確に見せるかは、好みの問題だ)。

余談だけれど、結果的にペニーワイズは藪をつついてしまった形だね。ベバリーに手を出したがゆえに、ビルたちに再結集のきっかけを与えてしまったわけだ。ベバリーにさえ手を出さなければ、ペニーワイズは今シーズン、お腹いっぱいで終えることができただろう。そういう意味では、ちょっとした穴に見えなくもない。

ここを気にするかどうかは、個人の好みによる。悪役側の緩手に見えてしまって、ぼくは少し気になったけれどね。けどそもそも、ビルのような子供が立ち向かってくることそのものが完全にイレギュラーであり、ビルたちの結束がペニーワイズの想定を超えて強かった、という方向に捉えることもできる。

14 フィナーレ(80-100%)

仲間を集め、決戦の舞台へ乗り出し、中ボスである不良を倒す。そしてその果てに、ペニーワイズそのものも打倒する。

空気銃を使う勇気、友情、恋、いじめっ子、偏執的な父親、ジョージィの生死など、あらゆる要素が、ここまでできちんと解決を見ている。

15 ファイナル・イメージ(100%)

ルーザーズクラブは、ペニーワイズが復活したときまた集まろうと誓いを立てる。ジョージィは戻ってこなかったが、ビルはそれを受け入れて前に進んだ。こういう形で、ビルは変化していると言える。変化を見せて、このセクションの役目を果たしているね。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のADVANCE+BS2

駆け足で『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』をBS2で分析したが、パラダイムに当てはめると、こんな感じになっている(一覧性を上げるために大きな画像を作った上、2パターンなのでさらに不格好になってしまったが、そこはご勘弁願えたらと思う)。

■『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のパラダイムに、BS2をプラス
■『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の文脈とサブコンテクストに、BS2をプラス

青春ホラーモノとしてみた場合、おいしい部分は第二幕前半、苦い部分は第二幕後半に集められている。単にホラー映画として視た場合、第二幕後半もおいしい部分となりそうだが、ビルたちからすれば、これは大変な目に遭っているのだ(それに、見ている方からしても、ビルたちが分裂してしまう姿は、心が痛むものだ)。

第二幕全体で、「もし大人の知らない怪異が町に巣食っていたら何が起こるか?」という問いに答えている。ミッドポイントでさらにこの問いを分割して、前半で楽しい話題、後半で辛い目に遭うシーンを扱っているね。

少々無理やり当てはめてしまうなら、「もし大人の知らない怪異が町に巣食っていたら、どんなことを観客が期待するか?」と、「もし大人の知らない怪異が町に巣食っていたら、どんな悪いことが起こるのか?」だ。

第二幕を半分に割る際、これが手っ取り早い抜け道になる。前半では楽しいこと、後半では大変なことしか起こらないのなら、その境目がミッドポイントだ。

楽しいことを第二幕前半に扱い、特にサブキャラについては、第二幕に入ってすぐに取り扱う。そして楽しいことをやり終えたら、ミッドポイントに到達。そこからは、敵の見せ場で、プロットポイントⅡへ近づくほど、主人公たちに深いダメージが入る出来事が起こる。この指針があるだけで、かなり楽にイメージできるようになるだろう。

こんな風に、三幕構成にBS2の考え方をアタッチメントとしてプラスすることで、より便利に、考えやすくなるんだ。単に三幕構成だけで考えるのが難しいとき、BS2からアプローチをかけてみると、突破口が実は近くにあったなんてこともある。

応用すると、質問一つで他人の物語のパラダイムを書くことだって可能だしね。これについては、次のステップで紹介するよ。

BS2についての情報は伝えられたから、今後は、三幕構成とBS2という2つの下地を使って、より具体的に、自身の物語を探る方法について、学んでいこう。

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