第1章はどうだっただろうか? 前章の末でも言ったが、難易度は、結構高く感じたと思う。
発展形のパラダイムを書くことそのものは、そうべらぼうに難しくはない。だけどいかんせん、あなたがBASICで基本のパラダイムを知ってからの期間が短い。運動不足解消のためにウォーキングを始めて、次の日にマラソンをやるようなものだから、大変に思うのも無理はない。
けれど、心配しなくていい。そこを可能にしてくれるのが、慣れというものだ。走る機能が体に備わっていないわけじゃなく、疲れる動きにまだ、体がついていかないだけだ。ゆっくり取り組んでいこう。
さて、前章で発展形のパラダイムと、それに付随する考え方を知った。けれど、まだ物足りない。もっと具体的な指標が欲しいよね。そういうものは、どれだけあっても困らない。
三幕構成がメインウェポンなら、ここで学ぶのは、取り回しのいい、とても都合のいいサブウェポンだ。
そしてもしそれが、テンプレートと呼べるくらい、強力なものだったとしたら?
それに応えるのがこのステップだ。カンニングステップ、チートステップと言い換えてもいい。
いずれはウォーキングからジョギングにシフトしてもらうわけだけれど、それまでの間「根性でやるんだ!」なんて言う気はない。ハリウッドは広いし、いろんな方法論がある。
三幕構成の変化形と言えるこの新しい手法を学び、より具体的な指針をサブウェポンとして持っておこう。
今回は、このステップをスタートするにあたってまず知っておいてほしいことを話すよ。
「面白い物語のテンプレート」からアプローチする
三幕構成が物語のテンプレートだと、もうあなたは言わないと思う。三幕構成はどちらかというと、型というより形、ただのモデルであって、「そりゃそんなこと言ったら、どんな物語でも三幕構成でしょ」と言われかねない、単なる、物語の形そのものについての話だ。
これを使って考えるほど物語は具体的になり、書きやすくなり、書くのが早くなり、完成させやすくなり、物語が引き締まるおかげで、面白いと思われやすくなる。たったそれだけのものだ。
また、物語の構造について、点と空間、範囲と文脈とサブコンテクストという考え方を知ったあなたは、他の書き方の手法を理解する速度が圧倒的に早まっている。
起承転結について語っている本やウェブサイトを、見直してみるといい。何の話をしているのか、驚くほどすんなり入ってくるはずだ。物語の構成という分野を非常に大きな形でくくっているのが、三幕構成とも言えるからね。
構成の形についてどう考えればいいか知ったから、他の創作ハウツーをどうやって吸収すればいいか、次々と応用していける。だからここから先は、どんどんいろんなものを吸収していけるんだ。
そして反対に、他の創作ハウツーの力を借りて、これまでの学習内容をブーストすることもできる。
100㎝の定規を分割していくこの考え方を理解していく上で、とりあえず35㎝の場所に何を書けばいいか知っているだけでも、どんなことを書けばいいのか、イメージは格段に掴みやすくなる。
確かに、基礎をすっ飛ばして思考停止でやると良くない。このステップで学ぶのは一種のテンプレートとも言える、「取り扱い注意」であることは確かだ。けれど基礎が身についていれば、理解の大きな助けになってくれるんだ。
ここからは、点と空間、文脈とサブコンテクストというパラダイムの考え方に、さらなるアタッチメントをつけていく。そうすることで、あなたがここまで学んだ内容をより使いやすく、便利にしていくことができるよ。
今回するのは「物語ごとに存在する個別の文脈、サブコンテクスト」という難しめの話とは違う。「とりあえず、面白い物語はこういう風になってるよ!」という、言い方は悪いが、雑で強力なテンプレートについてだ。
ここまで学んだ内容と組み合わせることでいろんな要素が判断しやすくなるから、楽しみにしていてね。
どうして基礎が大切になってくるのか?
ぼくが基礎についてしつこく念を押すのには、理由がある。本題に入る前に、その話をしておこう。これについては、ぼくの過去のやらかしも関係している。
どうして基礎が大切になってくるのか?
それは、パラダイムがズレていると、すべてがズレてくるからだ。構成の分野は、神秘ではない。神秘ではないものには理屈がある。ぼくらは理屈の積み重ねによって、答えを得ようとしているんだ。
その積み重ねが発展形のパラダイムであり、シーンを割り振るふるいとなり、不足を補うためのサブコンテクストを作る指標となる。パラダイムがズレていると、それだけでお手上げだ。データをもとに答えを割り出すんだから、データが違っていれば答えがズレてくる。
計算の答えは合っているのに、文章問題から作った計算式が間違っている。不思議なことは何も起こっていないのに、正しい答えが出てこない。
いきなり恥をさらすような真似をするのだけれど、ぼくは昔、『マトリックス』のパラダイムを派手に書き損じたことがある。
プロットポイントⅡの場所を大きく見誤り、ネオが自分を信じることを決めたあのシーンではなく、地下鉄でスミスと一騎打ちするシーンだと思ったのだ。
根拠としては、モーフィアスの「信じ始めたんだ」という台詞が決定的だと思ったからだ。あの段階ではスミスには結構やられてたし、弾丸も避けきれていなかった。まだ、「さぁ、ここから逆転だ!」という第三幕には入っていないんじゃないか、ここから入るんじゃないかと思ったんだ。
けれど結果的に、それは大ポカもいいところだった。
今までさんざん引き合いに出した通り、この作品のプロットポイントⅡはネオが自分を信じることを決めたシーンで、ぼくがプロットポイントⅡだと思っていたのは、とっくに第三幕に入った場所だった。ネオとスミスの一騎打ちは、すでにネオが自分を信じることを決めた後、ネオの力を見せるセクションだったんだ。
マズったのは、プロットポイントⅡを見誤ったことによって、ミッドポイントを見誤ったことだ。当時はまだ三幕構成を勉強し始めて間もなくて、再生時間で判断しようとしていたから、余計に混乱した。ぼくの書いたパラダイムは尺の配分がめちゃくちゃだし、サブコンテクストも「ほんとうに適切な言葉なんて入るのか?」って感じだった。
「電話線を切られてから、スミスとの一騎打ちまで」と事象をサブコンテクストととすることもできないわけではないけれど、これでは単に「ミッドポイントからプロットポイントⅡまで」を言い換えているだけだ。もっと適切な言葉がある気がしてならなかった。
この時は結局、プロットポイントⅡを見誤った結果、何もかもわからなくなってしまった。
プロットポイントⅡがズレれば、ミッドポイントがズレる。ミッドポイントがズレると、サブコンテクストがズレる……、それどころか、当てはまる言葉も見つけられなかった。そうなればピンチだって見つからない。これでは手も足も出ない。
BASICで「扱うのは基礎だが、内容を軽んじるならこれ以上言うことはない」と言ったのは、こういうことなんだ。
OPとEDの間に点を2つ打つ、それだけの内容に何万字と紙幅を割いたのは、ほんとうに、プロットポイントがズレると何もかもがズレるからだ。前回扱った発展的な要素の正確性は、BASICで扱った要素に完全に依存している。
『マトリックス』を観ながらプロットポイントⅡの場所を「スミスとの一騎打ち」にして、サブコンテクストや文脈の割り出しをやろうとしてみてほしい。ポイント間がカバーしている空間の範囲がめちゃくちゃなせいで、適切な言葉が見つからないと思うよ。そして、そのストレスは結構なものだ。
楽しいものではないが、この体験はしてもらったほうがいいと思う。少し時間を作ってでも、『マトリックス』を再視聴して、ぼくのやらかしを辿ってみてほしい。
自分の作品に取り掛かった時、「サブコンテクストに適切な言葉が見つからないけど、この感覚ってもしかして、パラダイム上の点の位置が、ずれているせい?」と、確認できるようになる。
書くという行為が、自分の中の物語を探っていくという性質のものだからこそ、自分で自分の物語を見つめて、判断できるのが大切になる。
パラダイムを書き、シーンを書いていくだけなら、ぼくがあなたと何時間か話をすれば済む話だ。けれど、それが本当にあなたが書きたいと思った物語の形かどうかは、あなたにしかわからない。だからあなた自身が、自分の物語について判断できるようにならないといけない。
ここからは、シド・フィールドが理論化した三幕構成とはまた違った要素を取り入れながら、パラダイムをより作りやすくなる方法について学んでいく。あなたの思いついたシーンがパラダイム上のどこに配置されるのか、判断しやすくなるサブウェポンについて学んでいこう。
カードの書き方についての見通し
ごめん、あと一つだけ。
細かいことは後の章で話すんだけど、パラダイムを書いた後は、シーンに変換していく作業に移る。そのときのイメージについて少しだけ、先に話をしておくよ。後の作業のイメージがあった方が、想像もしやすいだろうからね。
パラダイムを書いた後は、所謂、プロットというヤツを書いていくことになる。
そしてその際は、『情報カード』を使う。
ハコガキとか、プロットカードとか言われるやつだ。
フィールドは『5×3情報カード』と呼んでいる。5×3というのは海外の単位、インチのサイズだ。センチに直すと、12.5㎝×7.5㎝。単にその大きさのカード、メモ用紙のことを指している。日本で見つけるには手間がかかるから、小さすぎず大きすぎないサイズのものを、イメージしてくれればいい(ぼくは、10㎝×10㎝の、安いメモ用紙を使っている。値段を気にせずにガンガン書けるのが良いね)。
一つ断っておこう。ここからは基本的に、「プロットを書く」という表現を使わない。
「プロットを書く」だと、人によって書くものが曖昧だし、混乱を招きやすいからだ。カードに書く人もいれば、何十ページもWordのファイルを膨らます人もいる。指すものが曖昧なのは良くないし、カリキュラムが進めば、あなたは実際、こういうスタイルでシーンを構成していくことになる。だから今後、「プロットを書く」という言葉は、「カードを書く」と言い換えさせてもらう。
フィールドやスナイダーも「プロットを書く」という表現はほとんど使っていないようだし、それに倣う形だ。「カードを書く」と言えば、フィールドの書き方で書くのだとわかる。
具体的な方法については、後ほどきちんと紹介するよ。いま大切なのは、1シーンを1枚のカードに書くというイメージだ。
カード方式で書くのであって、パラダイムをもとにして、Wordのファイルにあらすじを書いていくスタイルは取らない。ここをしっかりとわかっていてほしい。
シド・フィールドも、後に紹介するブレイク・スナイダーも、カード方式で書くことを勧めている。ならば、そうした方が良いだろう。カードを書くステップでも言うけれど、この辺の注意点は、守らないと火傷するよ。
とまあ、色々言ったけれど、まずはイメージだけ持っておいてくれればいいよ。時が来たらきちんと説明するからね。
カード1枚に、1シーンの内容を書く。これが原則になっていく。ぼくがもし、『カード』という言葉を使うときは、「ああ、カード1枚に1シーンを書くんだな」というイメージで聞いてほしい。その前提だけわかっていてもらえれば、今は十分だ。
それじゃ、物語を書きやすくするズル、物語が面白くなるズルについての話を始めよう!