2.4空間と点に着目すれば「何を書けばいいか」わかる

ADVANCEステップ

さて。ピンチ編の続きだ。もし前回の記事を読んでいないなら、まずはそっちをチェックしてね。

今回は、パラダイム上に点を打つことの本当の効果について説明していくよ。

ピンチが生む新しい空間

ピンチには、もう一つの効能がある。と言うか、こっちがメインだ。ピンチは「ただ何となく」で、脱線を防いでくれるわけでない。というか、「どこに、何を書くか」を判断する上で、ピンチを決めること自体はおまけに過ぎない。

ピンチがあることによって、第二幕の前半と後半は、ピンチ以前、ピンチ以後という形で、さらに二つに分割できたのがわかるだろうか?

■『マトリックス』のピンチに至るまでと、至ってから

ミッドポイントと同じように、ピンチもまた、パラダイム上に点を打つことで、その空間に何を書くべきか教えてくれる。それはつまり、思いついたシーン受け皿を用意してくれているということでもある。

 ピンチによってできた空間には、もう一段細かいサブコンテクストを入れることができるのだ。

■ピンチで区切った中にも、小さなサブコンテクストが生まれる

第二幕前半は、「他人の言葉で自分を信じるヒーローの姿」を描いている。彼がそうなるまでと、そうなった後をピンチⅠの前後で描いている。

第二幕後半では、予言者との邂逅を経てネオが「自分で自分を信じることができないヒーロー」になった結果、どのような事態が起こり、それに対してどう対応するかが、ピンチⅡの前後で描かれている。

ピンチによってパラダイムが細分化されたことで、サブコンテクストもまた、細分化できた。「どこに、何を書くべきか」を、さらに深く知れたわけだ。

ちなみに、できるだけまとまっているシーンを包括するために、サブコンテクストを少し抽象的にしたが、こんな風にしてしまっても、全然かまわない。どちらが正しいということはない。パラダイムを作ることが最終目的ではなく、長編完成のための手段だ。「どこに、何を書くか」を、あなたが捉えやすい言葉を使ってくれればいい。

■これはこれでわかりやすい、『マトリックス』のサブコンテクスト

ピンチをパラダイムに打った時点で、周辺のシーンは「前の中継点からピンチに至るまで」と「ピンチに至ってから、次の中継点まで」に固定されている。

そうなると、抽象的なサブコンテクストよりも、こんな風に、「殆ど出来事をなぞっているだけ」のサブコンテクストの方が、書きやすいことも多い。実際、ピンチのシーンが固定されていると、この程度のサブコンテクストを決めるまでもなく、書くべきシーンが見つかることも結構ある。

ネオがデジャブーを感じた後、電話線を切られ、マトリックスから脱出できなくなる。そうなったらネオたちは大慌てで、相手は特殊部隊とエージェントだ。で、プロットポイントⅡまでに、現実の船内にいる裏切者、サイファーは死んでいるから(だってそうでないと、マトリックスにいつまで経っても再侵入できない)。となるとそれまでに、サイファー関係の話を済ませておかないといけない。

訓練をするにしたって、予言者に会ってからは訓練している時間なんてないし、仮想現実のことを知らずに仮想空間で訓練シュミレーションなんてできない。そうなると、訓練するシーンを入れられる場所はあの部分しかないんだ。

こんな風にピンチを打つだけですんなり決まってしまうことが、ほとんどかもしれない。細分化を繰り返したおかげで、サブコンテクストというレベルから、実際の出来事、シーンの単位で、細かく見ていけるようになっているわけ。

細分化によって得たかった「不自由」

文脈、サブコンテクストと細分化してきたわけだが、細分化してくる中で、だんだんと具体的になっていった。

「前よりマシだけど、この程度で何が細分化だ」と思うかもしれないが、このレベルでの振り分けが終わると、先述のように、シーンの時系列が制約としてガイドしてくれるようになる。

物語は思い付いたシーン単体で存在するのではなく、連なっているのだ。

あなたが他に書きたいと思ったシーンと、新しく思いついたシーンまでは、どれだけ離れている?その過程を、サブコンテクストに合うシーンによって見せるのに、どんなシーンが必要?

「えっと、このシーンはシーンBより後だと時系列に矛盾するから、そうなると、シーンBよりも前に持ってくるしかないな」

こんな風に、大まかな場所が決まれば、後は他のシーンとの兼ね合いがある。だから、そう自由にもならないんだ。「思いついたシーンが、物語の、収まるべき場所に収まった」という感じでね。

ピンチⅠからミッドポイントに至るのに必要なシーンを書きながら、思いついたシーンを入れようとする。それができる場所は、自ずと決まってくるんだ。

ピンチを決めると、点と転の間にある距離が短くなる。そうすると、書くべきことがどんどん、良い意味で限定されていくから、書くべきものと、書くべき場所が、だんだんはっきりしてくるんだ。

収まるべき場所にシーンを収めるには

第二幕で何かシーンを思い付いたとき、第二幕にある4つの空間の、どこにそのシーンが入るか、考えてみよう。

例えば、ネオがトリニティと射撃訓練するシーンを入れるとしたら、場所は一つしかない。

ピンチⅠからミッドポイントまでのどこかだ。それまではネオを現実世界に適応させるので手一杯だし、ミッドポイントからは、訓練なんてしている暇はない。予言者に逢ってからは、訓練をする場所が、時間的に存在しない。すぐに裏切者の罠が待ち構えている。

ではピンチⅠからミッドポイントの間のどこに入れるかというと、今度は、時系列や、演出の制約がある。

モーフィアスとネオが戦闘シュミレーション内で戦うのをトリニティやクルーに見せて観戦させたいから、その前に他の誰かと訓練をやるわけにはいかない。指導者たるモーフィアスと戦うのが、一番面白い。

で、モーフィアスと戦った後、ネオは疲れて眠ってしまったし……。もうすぐ予言者と会うのに、それまでに見せておかないといけない設定が、山ほどあるじゃないか。

第三幕で対決する現実世界の掃討兵器・スクイッディの情報を見せないといけないし、エージェントと通じている裏切者がいたことも、見せておかないといけない。ただ……おいおい、尺がないぞ!

こんな感じに、ピンチのレベルまでパラダイムを細分化すると、その空間にシーンを割り振るだけで、様々な制約が自動的に、然るべき場所に収めてくれる。

そもそも、トリニティといきなり仮想空間で訓練をするわけにはいかない。そこに至る過程もあるし、その結果についても、やらなきゃいけなくなるのだ。

「文脈やサブコンテクストの中身を回収しながら、ピンチに向かうシーンを書きなさい。ただし、それらが同時に、ミッドポイントやピンチⅡ、プロットポイントⅡ、エンディングに関連するシーンでもあること。かつ、重要度の高いシーンのみを残すこと。そしてそれらをキャラクターや時系列、あなたの演出上の好みに合致すること」

これだけの制約があれば、割り振りたいシーンの場所は、自然と収まるべき場所に収まる。なぜなら、「選択肢の数がそう多くない状況を、ここまで苦労して作ったから」だ。だからこそ「自然と」「物語の流れでそこに配置されてたように」思える場所に、シーンを配置できるようになるんだ。

もしそれでも不安なら、もう一つ小さいピンチを、パラダイム上に打ってみるといい。「ピンチ以前、以後」に何が書いてあるか、虫眼鏡で拡大するように見えてくるから、合致したところを探して、シーンを配置してみればいい。