BASICステップの記事をお読みいただき、ありがとうございました。
かつてPDF版『三幕構成BASIC』として制作したものからレイアウトや図解も変更、分量も以前より増えてしまいましたが、少しでもあなたの助けになっていればと思います。
「ハァィ、ジョージィ」とか、パラレルワールドのスティーヴン・キングとか、さんざんネタにしてきましたが、ぼくはキング創作に関する姿勢が好きです。『シャイニング』、『キャリー』、『グリーンマイル』、『ショーシャンクの空に』……、ほかにも、『1408号室』とかも観たんですよ。『地獄のデビル・トラック』は未履修ですけれど。
キングは、「ストーリーは以前から存在する知られざる世界の遺物である」と言いました(king 2000: p. 217)。作家の仕事は、それを傷つけないようにできる限り完全な姿で掘り起こすことだ、と。この言葉はずっと、ぼくの中にあります。
キングはプロットが嫌いと公言していて、以下のようにも言っています。
「どれだけ腕が良く経験豊かな者でも、化石を全くの無傷で掘り出すことはむずかしい。できるだけ傷つかないようにするには、シャベルではなくエアホースとか、パームピックとか、ときには歯ブラシとかの繊細な道具が必要になる。プロットは削岩機のように馬鹿でかい道具だ。削岩機を使えば、固い土から化石を取り出すのは簡単だろう。それは間違いない。だが、そうすると化石が粉々になってしまう。削岩機は粗暴で、無個性で、反創造的である」
(king 2000: p. 218)
要するに、「プロットを使うというのは、化石のように埋まっている物語を、削岩機で型にはめ、無理やり掘り起こすようなものだ」と。結構な言い方ですよね。
けど、ぼくはキングのこの姿勢が好きです。ぼくは物語をパラダイムに起こして、視覚化するという過程を経て作品を作っているし、それを人にも勧めています。
それは、少なくとも三幕構成はキングのいうプロット、「削岩機のような道具」ではないと、わかっているからです。
むしろ、細心の注意を払って刷毛で土を払いながら、ゆっくり取りこぼさないように、埋まっている自分の物語について知っていくのが三幕構成だと思っています(ぼくがもしあなたとメールやTwitterのDMでやり取りをしている中で『プロット』という単語に歯切れの悪い反応を見せていたら、それはここに起因するものです)。
物語を完璧な形で掘り起こす、自分の中に埋まっている人工遺物を、本来持っていた美しさそのままの形で読者に見せる。それは三幕構成を使って書くことで達成できると知っているからこそ、キングの言うことに共感します。
このステップで取り扱ったのは、三幕構成の基本中の基本です。しかし何度も言ったように、本稿で扱った内容は「全体の形を、的確に捉えるもの」であり、「何となくの全体像を書いてみる」とは違います。地図アプリのように、全体の形があり、必要とあらばズームして細かい地図を知ることができる、そういう種類のものです。
何本か映画を観てみて、パラダイムを書いてみてください。そして、「自分の物語ではどうか?」と、パラダイムを書いてみてください。そうやって長編が書けるようになるための一歩目を、踏み出してもらえたらと思います。
構成の手法を身に着けるのは大変ですが、確実に言えるのは、この手法は学校の勉強のように上達可能だということ。ここに投入した時間は、決して無駄にならないことが約束されていて、一歩づつ進んでいけば理解できるものだということ。これはハリウッド映画産業と、それを学ぶ人を取り巻く環境が証明しています。
構成の考え方を身に着けるのは大変ですし、大いに疲れます。ヘトヘトです。けれどこの疲労感は、どこに繋がっているかもわからなければ、進んでいるのかもわからない、苦しいだけのものとは違います。
学んでいるのは神秘ではなく、体系化された手法です。「やれば終わるし身に付く」という類のものです。創作という曖昧なことが多い分野でこれが保証されているって、凄く気分が楽になりませんか?
もっと沢山の情報をわかりやすくお伝えできるよう、これからも頑張っていきます(今回はカットしてしまいましたが、『羅生門』や『キル・ビル』のあたりに、『ボボボーボ・ボーボボ』の話とかもするつもりでした ※追記:Wordpress化にあたって、別途記事をアップできたらと思います)。あなたも是非、色々な作品のパラダイムを書いて練習し、自身の作品でも試してみてください。
それでは、あなたにとっての執筆がいつも楽しさと心地よい疲労感と、何より大切なキャラクターたちと共にありますように。
ハル