5.1CASE:プロットカードの実際のやらかし

CARDステップ

ここまで話してきたのを聞いて、「シーンとシークエンスが違うものだという事はわかったけれど、そこまで厳密に区別するほどのものか?」と思った人もいると思う。

実際、多くの場合において、映画ほど気になることはない。小説が視覚表現ではないからだ。けれど、この概念を知っているのと知っていないのでは、あるトラブルへの対処に対処できるかどうか、まったく変わってくる。

そのトラブルが、「何の気なしに書いたカードが、実はシークエンスだった問題」だ。

ぼくが三幕構成を覚えたての頃、カードを書き終え、執筆も順調に進んでいた。プロットポイントⅡで逆転のきっかけを得て、第三幕に突入、さあもう後は書ききるだけだ!……と、楽々気分だった時に、それは起こった。

カードを見ると、「最終決戦!」と書いてあるだけだったのである。

どんな場所で最終決戦をするかも、その最終決戦がどんな風に始まるかも書いていなかった。敵と味方が最後の戦いをするという、シークエンスのラベルだけが貼ってあって、中身が空っぽだったのだ。

つまり、何について書くかを決めていても、具体的に何を書くかは、まったく決まっていなかった。

■カードを書が書けて、「把握したつもり」になっていた

もっとまずかったのは、ぼくがそこでパニックを起こしたことだった。「緊急警報! 緊急警報! サイレンが鳴っています! 第三幕まで何十時間と書いてきたのに、もしかしたらポシャるかも! もうおしまいだ! ぼくにはやっぱり無理だったんだ!」

幸い、ぼくはなんとかして落ち着きを取り戻し(躓いた地点が第三幕だったのは、本当に幸運だった。無抵抗に撤退するには、勿体なさが勝ったのだ)、3日かかって「最終決戦」のシークエンスについて、その中身を考えた。机とトイレを往復することしかできず、シャワーの間も、何がまずいのか、どうすれば乗り越えられるかを考え続けた。

そして、あることに気が付いた。シークエンスを構成する個々のシーンについて、そもそも深く考えていなかったのだ。「後は戦って決着をつけるだけだからどうにでもなる」とね。

要は、単にカードの中身について、何も考えていなかったんだ。

原因がわかれば対処はできる。シーンを考えていないせいで詰まったのだから、シーンを考えればいい。

最終決戦は楽しいが、楽しく「最終決戦はドンパチやるぞ! 好きなように戦わせよう!」と、ぼんやりとアクションシーンを考えていただけで、そこに至るまでのシーンや、戦闘の中身、何がどういう順番で起こるのか、どこで起こるのかが、丸っと抜けている。こういう状態を、ちゃんと自覚すればいい。

イージーミスだが、その原稿を完成させる中でここが一番の危機だった。あとは物語を終わらせるだけ、という段階まで来ていきなり、何を書けばいいのか指標を見失った。解決策が思い浮かばなかったらと思うと、本当にぞっとする。

この失敗から得られる教訓というのが、「シークエンスをカードに書いたとして、それがシークエンスであることに無自覚なのはまずい」ということ。

カードを書けば、作業は進む。これはとても良いことだ。「今日は10枚もカードを書いた!」と、数字で成果が出るだけでも、モチベーションは全然違う(だってカード10枚と言ったら、物語の構成のおよそ四分の一を一日で終えた計算になるのだ。そりゃ嬉しい)。

けれどこれには欠点(カードに限らず、下準備で何かを書く時に陥りがちだ)があって、「カードを書いた=準備ができたことになってしまう現象」を起こすことがあるんだ。

ぼくがカードに「最終決戦」と書いたことと、「最終決戦」のシークエンスを書く準備ができたことは、必ずしもイコールにならない。なのに、それをイコールだと錯覚してしまったわけだ。

カードを書く時、そこにシークエンスを書くようなら、きちんと自覚しておこう。そしてその中身について、大まかでもいいから、ある程度想像して、カードにメモしておく。

念には念を入れて、カードの端に「シークエンス」と書いておいてもいい。

シークエンスだと自覚していれば、その中身について一歩踏み込んで、シークエンスに内包されたシーンについて、考える機会を得られる。それに万が一、ぼくと同じような事態になっても、「あ、具体的なシーンについて、まだそこまではっきり考えてなかったな」と、冷静に対処できる。

カードにシーンの案を書いているのか、シークエンスの案を書いているのか、自分でわかっていることが、こういったトラブルを未然に防いでくれる。

「実はそこまで考えていなかっただけ」というのは、シーンとシークエンスについて無自覚だと、実際に起こりうるのだ。それは執筆の進行にとって、致命傷になりかねない。

だからカードを書く時は、「このカードはシーンか、シークエンスか」を自覚しよう。

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