5.2パラダイムをシーンに変換していく流れ

CARDステップ

パラダイムから具体的なシーンを考えていくわけだけれど、ぼんやりパラダイムを眺めていても、シーンは浮かんでこない。ではどうやってシーンを浮かべていけばいいのか?

答えは、「次のポイントに進むのに必要なシーンは何か?」を考えることにある。

例えば、オープニングからプロットポイントⅠに至るまで、必要なシーンは何があるだろうか?

『テルマ&ルイーズ』のフィールドの例を参考に進めてみよう。

ある日思いついた『テルマ&ルイーズ』という物語の、第一幕のカードを書こうとしているとする。

まず、オープニングとプロットポイントⅠは、パラダイムの段階で決まっている。

  • カード1 (オープニング)ルイーズが働いている。
  • カード14 (プロットポイントⅠ)ルイーズがハーランを殺す

オープニングからプロットポイントⅠへ物語を動かすために、インサイティング・インシデントを使って、最初の動きを加える必要があるよね。

インサイティング・インシデントは二人の旅行だから、その情報を、シーンで見せないといけない。この物語では、それを旅行の準備について話す二人の様子によって描くことにする。そこで、カードを追加する。

  • カード1 (オープニング)ルイーズが働いている。
  • カード14 (プロットポイントⅠ)ルイーズがハーランを殺す

  • カード2 ルイーズがテルマに電話をする。

これで、二人の旅行という動きが物語に生まれた。ここからすべきは、二人がなぜ旅行に出るのか、旅行に出るのはどんな二人かという情報を、観客に見せることである。

テルマの仕事、ルイーズの夫婦関係などの設定面での情報はもちろん、二人の人物像についても、情報を提示しないといけない。

そのためには、二人の荷物をまとめる様子を描くのが良いだろうと考えた。対比することで、より鮮明に二人の性格を観客に伝えることができる。

  • カード1 (オープニング)ルイーズが働いている。
  • カード14 (プロットポイントⅠ)ルイーズがハーランを殺す
  • カード2 ルイーズがテルマに電話をする。

  • カード3 テルマとダリル。旅行については聞かない。
  • カード4 テルマとルイーズは荷造りをする。

これで二人の主要な人物について、最低限の情報を搭載することができた。テルマとルイーズ、二人だけで別荘へ旅行に行くというインサイティング・インシデント、物語の当面の動きが決まった。

ここからはプロットポイントⅠに至るまでに必要な、場所や時間、人物の条件をクリアしないといけない。物語をプロットポイントⅠまで動かすのに必要なカードを、書かなくてはいけない。

オープニングから、ルイーズがハーランを撃つというプロットポイントⅠまで、画面に映っている映像を動かすには必要な、条件は何だろうか?

プロットポイントⅠはシルバーブレットという飲み屋で、夜に発生する。そのために必要な人物は、テルマ、ルイーズ、そしてハーランだ。

シルバーブレットに移動し、それが夜で、ハーランという人物を出しておく必要がある。

となると、ルイーズは荷造りを終えたテルマを車で拾わないといけないし、飲み屋に立ち寄る必要があるよね(重ねて言うが、これは物語を操っているわけじゃない。飲み屋でテルマがハーランを撃つのは、パラダイムの段階から自分で決めていた話だ)。

お店に入ったら何かを頼むし、それがそのまま、この旅行を楽しむというインサイティング・インシデントで生まれた、仮の目的に向かって行っている。この道中で人物像や物語の背景について、追加の情報を出しながら、状況設定を進めていくわけだ。よって、カードを追加する。

  • カード1 (オープニング)ルイーズが働いている。
  • カード14 (プロットポイントⅠ)ルイーズがハーランを殺す
  • カード2 ルイーズがテルマに電話をする。
  • カード3 テルマとダリル。旅行については聞かない。
  • カード4 テルマとルイーズは荷造りをする。

  • カード5 ルイーズがテルマを拾う。
  • カード6 山に向かって車を走らせる。
  • カード7 テルマが途中休憩したがる。
  • カード8 何か食べて休憩するためにシルバーブレットで止まる。

そろそろ、ハーランを登場させよう。プロットポイントⅠには彼が必要だ。

ハーランが登場し、テルマを口説き、名前が判明する。外に連れ出されるテルマ。その状況を知らないルイーズは、店員に聞く。「あたしの連れは?」ルイーズがテルマの所在を把握していないことを、明示する必要もある。

こうやって状況が整えられ、テルマはハーランから暴行を受けそうになる。そして、ルイーズがハーランを撃つ。

  • カード1 (オープニング)ルイーズが働いている。
  • カード14 (プロットポイントⅠ)ルイーズがハーランを殺す
  • カード2 ルイーズがテルマに電話をする。
  • カード3 テルマとダリル。旅行については聞かない。
  • カード4 テルマとルイーズは荷造りをする。
  • カード5 ルイーズがテルマを拾う。
  • カード6 山に向かって車を走らせる。
  • カード7 テルマが途中休憩したがる。
  • カード8 何か食べて休憩するためにシルバーブレットで止まる。

  • カード9 ハーランがテルマを口説く
  • カード10 酒を飲み、お喋りをする
  • カード11 ハーランとテルマがダンスをする。テルマ、気分が悪くなる
  • カード12 ハーランがテルマを外に連れ出す
  • カード13 ハーランがテルマをレイプしようとする

あとはこれを見せたい順に並べかえれば、第一幕のカードは完成だ。この場合、「カード14」を最後に持ってくる形だね。

フィールドが言った、第一幕の33.3%の話を覚えているだろうか?

主人公やドラマの前提、何についてのか設定する、最初の33.3%。主人公に焦点を当てる、次の33.3%。プロットポイントⅠについて見せる、最後の33.3%。この3つが順番に展開されている。

ハーランの登場はかなり露骨な「プロットポイントⅠについて」で、楽しい旅行がこの男のせいでめちゃくちゃになり、逃避行へと変化する。こうして、『テルマ&ルイーズ』の状況設定は終わり、本当の物語、女性二人のロードムービーが始まる。

こういうプロセスで、パラダイム上のある点からパラダイム上の次の点へ、カードをつないでいく。

パラダイム上、既に決まっているカードを先に書き出し、そこに向かって、情報、時間、場所といった要素を順番に並べていくんだ。

最初は頼りなく思えるかもしれないけれど、時系列や場所といった制約は、カードの場所を決める、明確な指標になる。

例えば、ハーランが登場するカードを、他の場所に入れられるだろうか?テルマとルイーズは、まだ旅行にも出ていないのだ。行きずりの男であるハーランと出会う手段が、物理的に存在しない。となると、あの場所にしか収まるところがないんだ。

移動シーンにせよ、二人を飲み屋まで動かすという必要性から生まれていて、その上で、楽しい旅行の風景を見せながら、背景や人物の情報を開示しないといけない。となると、できることは限られてくる。もし車のシーンを最初から入れたいと思っていたのなら、願ったりかなったりだ。

極端な話、生きたハーランを描こうと思ったら、ハーランが生きている間、ルイーズに撃たれる前にしか、登場させることができない。どうやっても、彼はプロットポイントⅠで撃たれる。それは動かせないし、その後はもう、生きた彼を登場させることはできない。これが時系列の強制力なんだ。

下準備も無しにすべての出来事を時系列順に、となると大仕事だ。けれど既に。パラダイム上の点が対応するカードになっている。目印は明確だ。

プロットポイントⅠからピンチⅠまで、使えるカードの枚数は、たった7枚しかない。56枚のカードを時系列順に並べるのは大変だが、7枚のカードなら、そう難しくない。

こうやって、一つづつ、次のパラダダイム上の点に向かって、カードを積み上げていく。書くことに困ったなら、サブコンテクストを確認して、何についてのシーンを書けばいいのかを探る。案に困れば、BS2の要素から書くべきシーンを考え直してみてもいい。

パラダイム上の点をカードに先に書いて、そこに向かってカードを積み上げていく。そうやって、パラダイムをカードに変換していくんだ。

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