2.1推敲内容を3種類に分類して、優先順位をつける

REWRITEステップ

推敲レポートもあることだし、あれをより上手く活用する方法はないかと思って、ぼくが独自にやり始めたのが二段階推敲だ。これが今回紹介したい内容だ。

フィ―ルドのように複数のレポートを書くことはしないが、フィ―ルドの唱えた原稿の3つの段階を順番に上り、三段階目に着実に到達できるやり方だ。

まずは推敲レポートを書き進めながら、初稿を完成させる。それから時間を置いて、追加で推敲レポートを書く。今までは原稿を書きながらのレポート。これから書くのは、完成した今、読み直して改めて感じた、修正、改善、変更点である(簡単な誤字や表現を直す分にはいいが、本来の目的を見失ってはいけない)。

原稿に取り掛かる前に準備をしたように、推敲をするにも準備というものがある。実際に手を入れる前に、少しだけ準備が要るのだ。この準備が二段階推敲の一段階目になる。

書き終わったら、レポートに列挙された修正点を最初から順番に確認し、推敲の際に重要になる「ある分類」を行う。

その分類は、大別して3つ。

  • A 『構造に関わる、「機械的な」最優先の直し』
  • B 『物語の進行に当たっての「機械的な」補修』
  • C 『より細部を「それっぽく」するためのクリエイティブな直し・補強』

この分類を行い、その後、この分類に従って原稿に修正を加えていく。これらは上に行くほど優先度が高い。Aが最優先、Cに取り組むのは最後だ。順番に解説していこう。

A 『構造に関わる、「機械的な」最優先の直し』

ある問題によって、物語の因果関係に矛盾や大きな不具合が生じている。

それは、第二幕後半で使うキーアイテムの出し忘れであったり、シーンの順番を入れ替えであったり、執筆中に新しく入れたくなったシーンなどについてなどだ。

ぼくがやらかした、「知らない間に、主人公が知らないキャラクターと顔見知りになっていた」も、これに分類される。

■最優先の『分類A』

ここに分類される問題の解決のために、カードを追加したり、文章を派手に切り貼りしたり大手術になりやすいのが特徴だ。移植手術とか開腹手術とか、そういうレベルの手術をまず行う。

優先度が高いのは、変更の度合いが大きく、かつ、その重要性も高いからだ。

ぼくもかつてそうだったが、優先順位の無い推敲というのは、小さな変更点に時間をかけて、ようやく終わったと思ったらそのシーンそのものを変更することになった、という事をやりがちだ。

文章の書き方や台詞にこだわったのに、結果的にそのシーンそのものが丸っとカットされたり、場所が移動になったりする。そうすると二度手間になってしまう。

二度手間なのは別にいいのだが、二度手間によって「ああ、昨日3時間かけて直した文章が……」とか、「こんな無駄なことをやってしまったなんて、自分はやっぱり駄目なやつだ……」と、モチベーションに悪影響を与えるのは良くない。

優先順位をつけずに推敲をはじめ、ミッドポイントを過ぎたところで、第一幕で書いておくべきだったことに気づく。こんなことをやると、嫌になってしまう。

それにこの分類は、重要性も高い。読者に伝えておかないといけない情報を伝えていない。物語が最後まで進行するのに必要な情報が抜けていたり、矛盾がある。そういう、読んだ時に明らかにおかしい点は放置することができない。

質についての変更を加える前に、最低限、原稿の中で起こる因果関係に矛盾がないようにしておかないと。ここは物語を矛盾なく形にする上で、最低ラインクリアしておくべき基準である。

「機械的な」としているのは、ここではまだ芸術性ではなく、論理的に修正点を判断してほしいからだ(この「機械的な」という言葉そのものは、フィールドが推敲する際に使う、「機械的な直し」という言い回しから取っている)。

この項目を修正する目的は、「物語を最低限機能させるのに必要な状態まで持っていくこと」である。「より良い作品のために」という意識よりも、目の前の構造的な問題・修正点に対して「どうやったら、この致命的な矛盾をなくせるか」という、問題を解くような気持ちで臨む。まさしく、「機械的な直し」だ。

芸術によるウルトラCではなく、問題をそつなくクリアする、赤点回避の30点さえあれば、それでいい。

まず最優先すべきは、物語を最低限、機能させることである。

B 『物語の進行にあたっての「機械的な」補修』

二番目に優先すべきは、物語の進行にあたっての、「機械的な」補修だ。

ここは、分類Aの縮小版だね。キャラクターの動機を補強したり、違和感のある言動をキャラ本来ものに整えたりする。また、「シーンにするまでもない、地の文で説明したい情報」を入れたりする。

物語の進行に必要な情報を出すのを忘れていて、それがちょっとした会話で解決できるときなんかもそうだ。理由付けを補強したいと思ったときも、ここに分類している。あと、小さな突っ込みどころを埋める場合とかね。

今度はいわば、粗削りながら整えた物語を補修していく段階だ。大手術は終わったけれど、術後の経過を見守らないといけない。「大問題ではないけれど、放置するにはちょっと……」と感じて、その上で、分類Aほど大手術が要らないものが分類Bになる。

■機械的な補修の『分類B』

ミステリを思い浮かべると、わかりやすいかもしれないね。

孤島の洋館で殺人事件が起こった。あなたは書いているときに、「そういえばこの島、電話は繋がらないのか? どこかでケアしておくこと」と、推敲レポートにメモした。

電話がつながるか、繋がらないか。確かに、閉鎖空間で殺人事件を成立させるために、ここははっきりさせておかないといけない。

けれど、そのためにどれだけの規模の修正がいるか考えたとき、その度合いがそれほど大きくないことに気がついた。死体発見後に「それが……、電話線が切られていて……!」という台詞一つで解決するし、それでも違和感はない。携帯電話についても、電波の届かない島であることを、第一幕の会話や、第一幕で携帯電話が圏外だったことで説明できる。

この変更は、そこまで大きなものにならない。けれど必要な修正であり、主人公たちが警察を呼べず、「自分たちで事件を解決するしかないという状況」を作るために必要な理由付けである。

それを補強し、突っ込みどころを埋めておく。ここもまだ、芸術性を発揮する出番はない。必要なのは、理由付けをきちんと行い、突っ込みどころを消し、物語の機能的な粗を整えることである。

「読者からのツッコミどころを無くしたり、ちょっとした構造上の変更を加える、追加する」というイメージだね。

これが、二番目に優先されるべき、推敲レポートの内容となる。ぼくの場合は体感として、ここが一番多くなる傾向にある。火急の修正点は多くならないように、カードの段階で注意を払ってきたしね。

物語の進行に必要な問題は、分類Bの修正を終えたら無くせたことになる。フィ―ルドの言う第二段階、『機械的な』直しを、この段階で完了するわけだ。

C 『細部にこだわるクリエイティブな直し・補強』

この分類では、台詞や地の文の表現や、シーンやシークエンスの内容についての修正を行う。「何を書くか」よりも、「どう書くか、自分がどう納得するか」という比重が高くなる。

「このキャラクターのあの台詞が、説明的過ぎるから直したい」とか、「戦闘シーンをもっとエキサイティングなものにしたい」とか。あとは、「キレのあるギャグをもっと会話に追加したい」とかね。フィ―ルドの言う原稿の第三段階、ブラッシュアップの直しの段階が、分類Cにあたる。

■クリエイティブな直しの『分類C』

ここの変更では、創造性やクリエイティブな感性を存分に発揮していい。分類Bの修正を終えた段階で、物語は十分機能する、整えられたものになっている。あとは思う存分創造性を発揮して、修正を加えればいい。

見分け方として、「ここにOKを出すのは、『自分の好み』だろうか?」と、質問してみることだ。

分類A、Bは、物語を極めてシステマチックに見て、因果関係を整えたり、理由付けを補強してきた。分類Aは物語が矛盾なく終了するために必要な直しで、分類Bは物語が違和感なく終わるための直しだった。

ここまでの段階で、物語の形は十分整い、物語としての機能を果たせるようになっている。ではなぜ、まだ修正したい点が残っているのだろうか?それは自身の理想の形、自身の好みの形により近づきたいからだ。

機能的な問題はないから、あとはもう「作者がOKと言えばOK」という修正点がここに分類される、ということ。

重要度は高いし、優先度も上げたい。クリエイティブなことをやっているのだから、クリエイティブな行為の優先度は、高くて然るべきのはずだ。けれど、優先順位を下げざるを得ない事情がある。

自分のOKが出ればOKという事は、反対に、自分がOKを出さない限り、正解がないのと同じなのだ。正解を知らないならば、いつまで経ってもOKは出ない。

分類A、B、とは、修正の種類が根本的に違うのが、この分類Cである。ここでは四桁の掛け算の答えを聞かれているのではなく、「あなたの好きな給食のおかずは何ですか?」と聞かれているのだ。

掛け算は時間をかければ答えられるし、検算することもできる。けれど、好きな給食のおかずについては、正解を決めるのがそもそも自分なんだ。即答できるときは良いが、そうでないとき、ずっと立ち止まることになってしまう。

そして考えているときに、「玉子焼きは好きだが、いやしかし、唐揚げも捨てがたい」なんてことが浮かび始めたら、もう決めることなんてできない。好きなものについて考えるのは楽しいが、それゆえに立ち止まり続けられてしまう。

だからこそ、取り組むベストなタイミングが最後になるのだ。物語を機能させるうえで必要な修正というのは、もう終わっている。あとはどれだけ時間を使ってもいいのだ。

極論、それで時間切れになってもいいし、モチベーションが切れても大丈夫。分類A、Bを終えた段階で、物語をきちんと機能させられるようにはしてある。120点が100点になる程度だ。

質についての直し、ブラッシュアップがこの分類Cである。時間の使い方という面からしてもモチベーションの面からしても、この分類は最後に回すのが合理的なのだ。

推敲のまとめ

物語を動かすために必要な機能的な修正と、物語をより自分の好みに近づけるための修正。推敲は大きく分けてこの二段階に分けられるのだ。

このステップを踏むために推敲レポートを書き、分類する。途中までは極めて機械的に、そこからはとてもクリエイティブに推敲を行う。

これが二段階推敲だ。

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