2.3プロットカードを作ったのに長編が書けない罠

CARDステップ

思い立ってカード方式で物語の構成にトライしたが、カードAはぎゅうぎゅうに詰まっていて、カードBはスカスカ、一言書いてあるだけでお終い。いざ書き始めると、なぜかたくさん書いたカードでも詰まるし、スカスカのカードでも詰まる……。

過去にこんな経験はなかっただろうか?

今回はそれを解決する、『シークエンス』という概念について学ぶよ。

『シークエンス』とは?

『シークエンス』とは、シーンの集合体のことだ。

フィールドの定義を述べておくと、「シークエンスとは、1つの共通の目的に向かってゆく、“発端”“中盤”“結末”という明確な形を持ったシーンの集合体である」としている。また、「つまり1つの目的、意味によって1つにされた、ドラマ上のアクションの塊なのだ。シークエンスこそ脚本の骨格もしくは背骨であり、すべてを一つにまとめる“構造”そのものである」とも言っている。

噛み砕いて言うなら、「ある目的に沿った一連のシーン」ということになる。

■これがシークエンス

例えば『マトリックス』で、ネオが会社でエージェントに追われるという、物語上の動きがある。

ネオが寝坊し、上司に叱られ、デスクにつき、郵便物を受け取る。そして危険が迫っていることをモーフィアスに知らされ、エージェントを目にする。会社の中を動き回りながらネオは立ち回るが、最終的に、逃げることができなかった。

DVDを確認すると、ここは『「奴らは君を捕まえる気だ」』というチャプター名になっている。

ここに先ほど学んだ、『シーン』という概念を当てはまてみると。体感的には、おかしな現象が起こる。

ネオが寝坊するシーンと上司に叱られるシーン、時間と場所が変化している。つまり、厳密な定義に沿うなら、ネオが寝坊するシーンと、その直後上司に叱られるシーン、別のシーンとしてカウントされるのである。また、ビルの外に出ようとするのも、場所が大きく変化しているね。

こんな風に、『シーン』は結構簡単に、切れ目ができるんだ。けれど、このシーンたちは、ある1つの目的に沿って、並べられている。それが「ネオに迫るエージェントの危機」について描く、という共通の目的である。

ネオが脅威に遭遇し、対応し、捕まるという、“発端”“中盤”“結末”を持った、シーンの集まり。これがシークエンスという事になる。

アクションシークエンスを引き合いに出すと、特にわかりやすいかもしれないね。

モーフィアスを救うため、トリニティと一緒に、軍の管理するビルに正面から乗り込む。ロビーで戦った後、モーフィアスをエージェントの手から救い、一緒に逃げる。“発端”“中盤”“結末”のある、「救出」というシークエンスだ。

■『マトリックス』の、とあるシークエンスの内訳

時間や場所が変化していても、物語は一貫性を失わない。それは、「救出」というキーワードによって、シークエンスとなっているからだ。並べられたシーンが、「救出」という目的に向かっていることで、並べられたシーンが、一貫性を保っている。

シーンとシークエンスは似ているけど違う

フィールドは、シークエンスが持つ共通の目的とは、一言で言い表せる場合が多いと言っている。結婚式、葬式、追跡、調査、レース、銀行強盗、戴冠式などだ。

気づいた人もいるかもしれないが、『シーン』と『シークエンス』は、一般的には、同一視されることが多い。

例えば、『ターミネーター2』の第三幕、製鉄所での戦いのことを、「製鉄所のシーン」と言うことはあっても、「製鉄所のシークエンス」と言う人は少ないだろう。

厳密には、この2つは別物で、「製鉄所のシーン」は、「製鉄所でT-1000が、チッチッチ、と指を振るシーン」など、もう一歩踏み込んだ指定が要る。反対に、製鉄所での一連のアクションを指す場合、それは「製鉄所のシーン」ではなく、「製鉄所のシークエンス」と言わなければ、広い範囲を指したことにならないというわけだ。

シークエンスの目的がはっきりすれば、どんなシーンを書くか、あなたが好きに選ぶことができる。

妻との不仲を表すのに、口喧嘩をするのか、指輪を外した妻を登場させるのか、それとも、離婚について弁護士から書類が届いているのか、どんなシーンでそれを表せばいいか、自分の好みを反映できる。ここでも、決めるからこその自由を得られるんだ。

スカスカのカードと、みっちり詰まったカードの違い

カードがスカスカになったり、みっちり詰まってしまっている理由は、シーンとシークエンスを混同してしまっているからだ。

「プロットを書く」とか、「箱書きを作る」といった場合、そこに書かれるのは、『シークエンス』であることも多い。

■カードに書かれている内容の種類が、そもそも違う

あるカードには、印象的なシーンがズバッと書いてある。別のカードには、印象的なシーンをメモしているうちに、それがシークエンスになってしまっている。だから内容に偏りが生まれるんだ。シークエンスの方が、情報量がそもそも多い。

この2つが混在することは、別に構わない。が、無自覚に混同してはいけない。

それによって発生する問題については後々話すから、今はまず、シーンとシークエンスを区別するという事を、覚えておいてほしい。