カードについて具体的な話をする前に、カードに必要な要素について知っておかないとね。カードはシーンを書くのだから、カードに何を書くのか、どう書くのかを知っておく必要がある。つまり、『シーン』について知っておく必要がある。
このテキストの中で初めて、この言葉を『』で囲った。つまり、定義をして、解説するってこと。
シド・フィールドの言葉を、また引かせてもらおう。
シーンについて、「シーンは、脚本の中でたった一つの最も重要な要素である。シーンの中ですべてが起きるのだ。ストーリーを語るとき、シーンこそ劇的あるいは喜劇的なアクションの最小単位であり、細胞である」(Field 2005: p.190)と、フィールドはこう言っている。
遠回しな言い方だが、要するに、物語を構成する最小の単位が、シーンであるということだ。それが集まって、最後は一つの物語になる。
カードを書くという事は、シーンの内容を決めるという事だ。つまり、カードの書き方を知る前に、シーンについて知っていないといけない。完成させるためにはもちろんのこと、面白く書く、あなた自身の書き続けるモチベーションのためにも、シーンは大切だ。
フィールドはシーンの大切さについて、「良い映画を思い浮かべたとき、映画全体よりもシーンを思い出すことが多いだろう」と言っている。
シーンは、読者や観客が、実際に目にするものだ。良いシーンが、面白かったという気持ちを作り出す(逆を言うなら、シーンを思い出すからこそ、パラダイムというものの存在に気づかないということでもある。目に見えるのがシーンで、目に見えないのがパラダイムやBS2だ)。
シーンについて知ることは、作品を完成させるためでもあり、より面白い作品にしていくことで、あなた自身のやる気を高く保つ効果もあるというわけだ。「無駄なシーンのない、引き締まった物語だ」という感想のオマケ付きでね。
まずはこの最小単位について、話をしていくよ。
『シーン』に必要な2つの要素
フィールドは、シーンの目的は2つあるとしている。
1つは、「物語を前に転がす」こと。もう一つは、「登場人物についての情報を明らかにしていくこと」である。シーンは、この二つのどちらかを見たしている必要がある。このどちらもない場合、そのシーンは「不要なシーン」となる。
では、シーンを作るのに不可欠な要素は何か?
それは、「時間」と「場所」であると、フィールドは言っている。シーンは必ず、特定のある「場所」で、特定のある「時間」に存在する。要するに、現在、画面や原稿用紙(つまりあなたや読者の頭の中)に映っているのは、いつの、どこでのシーンなのかを、決めておく必要があるという事だ。
フィールドは、シーンの目的は2つあるとしている。
1つは、「物語を前に転がす」こと。もう一つは、「登場人物についての情報を明らかにしていくこと」である。シーンは、この二つのどちらかを見たしている必要がある。このどちらもない場合、そのシーンは「不要なシーン」となる。
では、シーンを作るのに不可欠な要素は何か?
それは、「時間」と「場所」であると、フィールドは言っている。シーンは必ず、特定のある「場所」で、特定のある「時間」に存在する。現在、画面や原稿用紙(つまりあなたや読者の頭の中)に映っているのは、いつの、どこでのシーンなのかを、決めておく必要があるという事だ。
自宅か、学校か、体育館か、それとも車の中か? 朝か、昼か夜か午前か、午後か、おやつ時か? 書きたいシーンの内容によっては、もっと細かく決める必要も出てくるかもしれない。雨か、晴れか、夜明けか、といった具合にね。
映画は脚本をもとにして撮られるから、「時間」と「場所」の指定は、監督がどんな画を用意するか知るために、脚本に記載がないとだめなんだ。
あなたが書くのは映画脚本ではないけれど、あなたが思う浮かべたシーンを並べるためにも、そのシーンの大まかな「時間」と「場所」は知っておかないといけない。
『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編、突入後のことを思い出してほしい。どこで、誰が何をしていたか、そしてそれがいつだったか。「時間」と「場所」を綿密に決めていないと、あの物語を書くのは難しい。時間と場所が、面白さと密接にかかわりを持っている例だ。
別パターンで、『ダイ・ハード』は、「夕方」から「夜間」、「空港」から「社内」、「ビルの中」と程度で。一見ほとんど変化がないように思える。
けれどこれは映画全体から見た話であって、テロリストとの闘いが始まってからも、「社長室」や「屋上」、「エレベーター」、「通気口」と、いったように、シーンごとに場所が変化している。ブルース・ウィリスが単体で、真っ白な画面の中で銃をぶっ放しているわけではない。彼が銃撃戦をするにも、自身の不運をぼやくにも、画としての「場所」が必要なのだ。
この作品の場合、時間について監督が用意するのはロサンゼルスの夜だけでいい(あと最初の夕方)。けど、ブルースが起爆装置を奪う前、奪った後、FBIの到着後、など、作中で起こる出来事の時系列、因果関係という形で存在している。『ダイ・ハード』という物語を書こうとしたとき、これらの出来事の時系列や因果関係が不明だと、シーンを配置する順番が、わからなくなってしまう。
ブルースが外部に助けを求めようと、テロリストの襲撃を緊急センターに通報するシーンがある。このシーンは、この物語をパラダイム上の次の点に移動させるのに必須のシーンだ。警察やFBIの介入が、プロットポイントⅡに関わるからね。
けれど、『緊急センターに通報』という、「物語を進めるうえでやらなきゃいけないこと」を把握するだけでは、シーンにはならない。『緊急センターに通報』という役目を、どういう画面で見せて、それをどこに配置するか。それを決めるための時間と場所を、はっきりさせておく必要があるんだ。
こんな風に、『HUNTER×HUNTER』のような物語を書くのでないにせよ、シーンを並べていくための指標として、「時間」と「場所」は必要だ。
ポピュラーなシーンの配置方法の一つに「時系列順に配置する」というのがあるけど、それをするのにだって、大まかな時系列を把握していないといけない。
「場所」にしたって、登場人物がいる場所によっては、新たな説明が必要になったり、移動のシーンを挟みたくなることもあるだろう。それに、背景のない映像なんてのはあり得ない。
程度の差こそあれ、シーンを並べるために、そのシーンの「時間」と「場所」について、あなたは知っておく必要があるってわけ。
そんなの当たり前でしょ? って思うかもしれないけれど、当たり前にそれが設定できるシーンなら、それでいいんだ。戦いの舞台、時間、物語のキーとなる出来事についてや、感情が揺さぶられるシーンなら、ほとんどの場合、作者自身の中でこういう情報は決まっている。
けれど、シーンを作って行く、カードを書く上で大切になってくるのは、そういうシーン「でない部分」を、どうやって補っていくかだ。物語はおいしい部分だけで形になっているわけではないという話は、前にしたよね。特に、必要に応じて補ったシーンにおいて、これらは抜けがちだ。
「時間」と「場所」は、映画監督が脚本を映像にするときにアテにする項目だ。「時間」と「場所」から、画が生まれる。反対にこの2点を設定しておかないと、どういうセットで、どういう照明で、どんな天気で撮ればいいのかわからない。つまり、映像が決まらないんだ。
小説と映像、どう関係するんだと思うかもしれないが、これは大きく関連する。小説は文章から場面を想像させる媒体だ。どんな場面を想像させたいのか、作者がわかっていない。そんな状態で、読者に想像させることは難しい。というかそれ以前に、書くことが難しくなる。
例えば、あなたがパラダイムをという言葉を知る前から温めていた、会話シーンがあったとする。
けれど、それがいつか、どこで行われるのかは、まったく決まっていない。この状況で、この会話を、物語のどこに入れればいいのだろう?
全ての違和感を無視して脈絡なくそのシーンを入れたとして、場所も時間も決まっていないなら、その会話がどこで行われているのか、読者はその映像をイメージできない。それは面白いことではないし、なによりそのシーンを、あなた自身が楽しめるだろうか?
「時間」と「場所」は、読者に想像させる映像を自身で知っておくために、必要な要素なんだ。
『シーン』はどこからどこまでが1単位なのか?
それと、重要ポイント。
「時間」と「場所」は、ある重要な疑問の答えに関わってくる。それが、「『シーン』とはどこからどこまでが1単位なのか?」という疑問だ。
1単位、つまり、「1シーン」とは、厳密にはどこからどこまでを指すのか、という、定義についてだ。
厳密に区別しなきゃいけないのはカードを書く時くらいだけど、これからカードを書くからね。ここも抑えておかなきゃいけない。「時間」と「場所」は、1シーンという単位の、根本に関わる。
「『場所』、もしくは『時間』が変わると、それは新しいシーンとされる」と、フィールドは言っている。
「ある場所や時間が、別のある場所や時間になるまで」を1シーンという単位で区切る、というわけだ。
どうしてこんな分け方がされているかというと、極めて映画的な事情が背景にあるためだ。
時間か場所、この二つのどちらかが変わると、照明やセット、カメラ、ロケーションの変更が必要になる。これをやればやるほど予算がかさむ。その把握のために必要というわけ(だからこの定義は、フィールド個人が定義したというより、映画業界の定義だ)。そして監督が何を撮るべきか、その映像を示さないといけないのだ。
あなたが書くのは映画脚本ではないし、シーンを作るのに、カメラもセットもいらない。けれど、物語の構成に使うのは映画脚本の手法だ。だったら、それに倣っておくのがベターだよね。
それに、この定義に則って1シーンという単位の区切り方を理解しておくと、カードの全体枚数が管理しやすくなる。後述するけれど、オープニングからエンディングまで、必要なカード枚数の目安というのがあって、それに当てはめやすくなるんだ。
あと、「1シーン」って言葉を、「1シーンなんて言ってるけど、どこからどこまでで1シーンなんだ?」なんて疑問と一緒に使う必要がなくなるしさ。自分でもよくわからない言葉を使うのは、気持ち悪いもんね。
あるシーンから、「時間」か「場所」、そのどちらかが変化したら、それは新しいシーン。「時間」か「場所」が変化するまでが、1シーンだ。覚えておこう。