3.4プロットポイントをカンニングして見つける方法

CUNNINGステップ

スナイダーは、幕を跨ぐときは主人公の明確な意思が必要になると言った。これは実は、多くの場合において、プロットポイントⅠを見つける指標になる。

物語の構造という面から判断するのが難しい場合、キャラクターを観察するという方向から、アプローチができるようになるのだ。

主人公が、何か明確な意思を示すシーンはないだろうか? 死にたくないとか、犯人を必ず突き止めてみせるとか、復讐してやるとか、この人を必ず守りぬくとか、そういう、明確な意思を見せるシーンだ。なぜ意思を見せたのか? 幕を跨ぐためだ。

■意思を見せたということは、幕を跨ぐということ

『マトリックス』はそういう意味で、非常にわかりやすい。赤い薬を飲むか、青い薬を飲むか、選択肢を提示して、それをネオが選んでいる。選択によって、意思を見せて、その意思が、ネオを現実の世界へ連れてゆく。モーフィアスは選択肢を示したが、その道を歩いたのはネオである。

幕を跨ぐには、意思が必要。だからこそ、その意思を見せる直前の出来事が、プロットポイントⅠになるんだ。

『お楽しみ』への切り替わり、つまり、文脈の変化からプロットポイントⅠを見分けることも、できなくはない。けれどさっきも言ったように、プロットポイントⅠは「序盤→別の序盤」という形で、似たような文脈が連続するから、このアプローチだと、判断に迷うときがある。

『エイリアン2』はその典型だ。エイリアンが出たという惑星に同行する人物のほとんどが第二幕に入ってから登場するせいで、どこまでが状況設定なのか、ほんとうにわかりづらい(DVDでないバージョンだと、シーンがいくつかカットされているから、さらにわかりづらいよ)。

エイリアンの出たという星に同行する軍人たちが出てくるのは、いかにも、「まだセットアップの続きです」って感じがするよね。けれどここはもう、セットアップじゃないんだ。

「エイリアンが出たから、過去に戦った経験がある君に、アドバイザーとして同行してほしい」と宇宙船に乗った。目覚めてから、クルーたちとの会話、着陸までの準備に、かなりの尺が割かれている。濃い面子がそろっているが、物語は方向を失わない。むしろ、楽しいシーンだ。ここは、「ここからの冒険を共にする、新しい仲間を紹介するぜ!」ってシーンなんだ。

幕の中にも序盤・中盤・終盤があると言っていたのを、覚えているだろうか? 第二幕に入った直後のこのタイミングは、まさに「新しい世界の序盤」とも呼べる場所なんだ。

新しい世界には新しい世界のルールがあり、新しい世界の住人が居る。それらの説明をするのがこのセクションで、だから、少し横道に逸れたように見える、というわけ。

『マトリックス』では、実際、別世界に入っているよね。今まで仮想の世界にいて、プロットポイントⅠをきっかけに、現実世界へ入った。そうしたら、現実世界の説明をしないといけない。だから、他の何をするよりも先に、船のメンバーを紹介し、機械に支配されているという現実世界の説明をしたんだ。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』も、迷いやすい。『サブプロット』で合流した登場人物との仲に尺が割かれた場合、「まだここが状況設定の最中?」と、混乱してしまう。『マトリックス』のように、第二幕の最初に新しい世界の設定の話を始めたりする場合も、状況設定が続いていると思い込みやすい。

こういう時は、『サブプロット』や『お楽しみ』の存在を思い出してほしい。

『お楽しみ』がカバーしている範囲の中に『サブプロット』が入っている。こういう認識で物語を見直せば、「そろそろ第二幕に入ったんじゃないの? でも、まだ人物や世界の説明をしているし……」と、迷わなくて済む。

メインウェポンは、フィールドの「物語が本題に切り替わるきっかけになったシーン」で、サブウェポンが「主人公が意思を見せることになったきっかけの出来事」。予備の武器として、「『お楽しみ』に切り替わるきっかけの地点(『サブプロット』の存在を忘れずに! )」という視点を持っておく。こういう具合で、使っていくと、三幕構成一辺倒の見方よりも、アプローチしやすくなる。

プロットポイントを見誤ったあなたがすべきカンニング

プロットポイントⅠを見分けるわかりやすい方法として、『ドラマ上の欲求』の変化がある。

ドラマ上の欲求というのは、『チャイナタウン』でいうところの、ギテス浮気調査であったり、「誰が、何が、自分を嵌めたのか」などだ。ドラマ上の欲求に向かって、主人公は行動する。

オープニングを経て、インサイティング・インシデント。この段階で、主人公のドラマ上の欲求が、示されているはずだ。そして、プロットポイントⅠで、それが変化する。

  • 『チャイナタウン』……浮気調査→誰が自分を嵌めたのか知る
  • 『アナと雪の女王』……戴冠式を無事に終える→雪に覆われた国をもとに戻す(エルサを追う)
  • 『ダイ・ハード』……不仲な妻との仲を取り戻す→テロリストを倒す

プロットポイントⅠを境に、主人公の欲求が変化しているのがわかるだろう。主人公のドラマ上の欲求が切り替わったからこそ、文脈が変化する。

厳密な分け方をしていくと、この「ドラマ上の欲求が切り替わったことを明示した瞬間」が、プロットポイントⅠであり、「ドラマ上の欲求が切り替わるきっかけの出来事」が、キイ・インシデントになる。

『チャイナタウン』のキイ・インシデントは、本物のモウレー夫人が現れたところで、プロットポイントⅠは、事実を知ってこれからすべきことを決めたところである。ただし、二者は極めて近いところにあるから混ざりやすいし、混ぜてしまっても、プロットポイントⅠ、つまり「ドラマ上の欲求が変化するきっかけとなった出来事は何か? (=キイ・インシデントは何か? )」と考えることになるので、ほとんど問題にならない。

ただし、ただ単に「ギテスが自分が嵌められていることに気づく」と決めておくだけではだめだ。それでは、どんなシーンを書けばいいのかがわからない。ギテスがそれに気づくシーンが何で、どんな出来事によってギテスがその事実に気づくのか、それを把握しておくことが、「何を書くか」まで知るこということだ。

第一幕と第二幕の境目を跨ぐとき、ドラマ上の欲求はハッキリ変化する。何故なら、第二幕が葛藤だからだ。欲求に向かって行動するからこそ、そこに対立、障害が生まれる。だからこそ、ドラマ上の欲求が変化した場所というのは、プロットポイントⅠを判断する材料として、非常に有効となる。

インサイティング・インシデントで設定されたドラマ上の欲求が、別のものに変化するタイミングはどこか? そういう点からアプローチを書けることで、プロットポイントを判断する。こういう手もあるのだ。